小説家直伝「名作」を味わい尽くす意外な読み方 「こころ」をスロー・リーディングしてみる

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あえて一冊の本をじっくり読むスロー・リーディングを用いて日本文学の傑作を読むとどうなるか(写真:MediaFOTO/PIXTA)

「速読本」ブームが起こって久しい。一方で私たちの1日の時間は有限であり、増え続ける情報を網羅的に処理するには限界がある。その過剰を、受け手である1人の人間のためにどう圧縮するか、というのが、まさしく今日、AIに期待されていることであり、いずれにせよ、私たちが「スロー・リーディング」のための時間をすべて速読に供したとしても、大した成果は期待できない。

すでにそういうところまで来ているし、今後は一層そうなるだろう。ここでは拙著『本の読み方』より、あえて1冊の本をじっくり読む「スロー・リーディング」を用いて日本文学の傑作を読み解きたい。

第3部は『こころ』のクライマックス

ここで取り上げるのは、夏目漱石の晩年の名作『こころ』だ。国語の教科書の常連で、「ゆとり教育」論議の際にも、「国語の教科書から漱石・鷗外が消える!」と大騒ぎになったくらい、国民作家としての漱石の存在感は、まだまだ健在のようだ。

国語の授業というのは、一種のスロー・リーディングの時間である。そのときに、おそらくは読んでいるはずという意味で、ここでまた、あえてこの作品を取り上げてみた。多くの人にとって、これは時間をおいた「再読」となるだろう。

『こころ』は上「先生と私」・中「両親と私」・下「先生と遺書」という3部構成になっている。教科書に採用されているのは、第3部の「先生と遺書」が多いようだ。

親友が好意を持っていた女性を、計略を巡らせて奪ってしまい、結果、その親友が自殺してしまうという重いテーマの小説である。そのことに対し、彼女との結婚後も、「先生」はずっと罪悪感を持ちながら生き続けてきたが、明治天皇の崩御と乃木大将の殉死の報に触れて、ついに自殺を決意するという結末で、愛、友情、エゴイズム、死などの深刻なテーマが折り重なる第3部は小説『こころ』のクライマックスといってもいい。

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