不動産会社vs.テナント、「立ち退き料」の経済学 大規模な再開発の陰で立ち退き訴訟が増加中

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むろん、テナント側にも言い分はある。立ち退きを迫られたあるテナントの訴訟に携わった弁護士は、「店舗を移転すると、せっかく店についた常連客を失いかねない。代替場所を用意するといっても、同じ面積や立地、賃料のビルはなかなか確保できない」と話す。

再開発によって新しく立ったビルには賃料が高くて入居できないほか、入居の意向を示しても「(古めかしい店舗は)ビルの方向性と合致しない」などとビルオーナー側から入居を断られるケースも少なくないという。最寄りの店舗との距離制限があるたばこ屋や、新規に営業許可を得ることが極めて困難な風俗店の場合は、廃業の危機に瀕する。

そこで立ち退き料は「迷惑料」としての色彩を帯び、単なる引っ越し費用や休業補償の合計だけでは説明がつかない金額となっていく。「ビルオーナーとテナントが互いの腹を探り合い、補償金額の落としどころを探る」(不動産鑑定士)。

「多少鉛筆をなめることはある」

とうに償却の終わった備品の価値を高く見積もったり、移転によって値上がりした賃料の補償年数を延ばしたり、立ち退きまでの賃料を大幅に減額したりして、補償金に「げた」を履かせていく。「(立ち退き料の算定にあたって)多少鉛筆をなめることはある」と前述の不動産鑑定士は打ち明ける。

経済合理性や防災性を考えれば街の開発が促進されることは望ましく、立ち退きに時間がかかるほどビル建設は遅れる。東急レクは今年8月にようやく新ビル建設工事を着工させたが、一連の訴訟がなければ早くに計画が進んでいた可能性もある。

反面、テナントにしてみれば、あずかり知らぬところで計画された再開発によって、突如立ち退きを迫られることは不本意極まりない。再開発を通じて都市のスクラップ・アンド・ビルドが活発化する中、テナントが営業を続ける利益と開発によってもたらされる利益のあり方は、まだまだ議論の余地がありそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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