不動産会社vs.テナント、「立ち退き料」の経済学

大規模な再開発の陰で立ち退き訴訟が増加中

2012年1月、東急レクは立ち退きを求めて裁判所に調停を申し立てた。これが不成立になると、同社は周辺賃料相場の回復を理由として、ビルの賃料を月額275万円から391万円へと増額する訴訟を起こした。

訴訟を起こされた居酒屋「笑笑 歌舞伎町総本店」を運営するモンテローザは、「(賃料負担に耐えきれず)退去させるための不当な圧力だ」と猛反発。逆にリーマンショックや東日本大震災後の不動産市況を理由として、月額260万円への賃料減額をもぎ取った。

すると東急レクは、補償金3000万円を引っ提げて立ち退きを求める訴訟を改めて提起した。モンテローザは依然立ち退きを拒みつつも、訴訟過程において立ち退き料として約6億4000万円を提示した。高裁まで争った末、2013年7月に立ち退き料2億6000万円を支払うことで和解した。訴訟に関して、東急レクリエーションおよびモンテローザはともにコメントを拒否している。

「飲食店は立ち退き料が高額になりやすい」

冒頭のパチスロ店を相手取った訴訟と比べると、立ち退き料に2億円以上もの開きが生じている。訴訟の中で東急レクは、「被告は不当に高額な立ち退き料を得るために、店舗を維持していると疑わざるをえない」とまで言いのけているが、モンテローザは取材に対して「(再開発によって立ち退きを迫られそうな古いビルに)戦略的に入居することはない」と否定する。何が明暗を分けたのか。

東急レクリエーションが進める歌舞伎町の再開発現場。工事は今年8月に着工された(記者撮影)

建物の明け渡し訴訟に詳しい岡本政明法律事務所の岡本直也弁護士は、「店舗や飲食店は立ち退き料が高額になりやすい」と話す。好立地でも賃料が安い築古ビルへの入居を好む飲食店や小売店舗は立ち退きにかかりやすいが、内装や備品など、オフィスと比べ移転に伴って廃棄せざるをえない設備が多い。駅距離や人通りなど、同様の集客力が期待できる立地を確保することも難しく、移転先が賃料や立地で劣る場合は補償金での埋め合わせとなる。

開発を行いたい不動産会社やビルオーナーはすでに多額の投資を行っているため、「後に引けない」という事情もある。裁判に時間をかけるより、多少高額な立ち退き料を支払ってでもさっさとビルを取り壊すほうが合理的だからだ。

新宿駅西口での再開発をもくろむヨドバシカメラは、退去を拒むミニストップに対して2014年に訴訟を起こしたが、最終的にヨドバシがコンビニオーナーとミニストップ本部にそれぞれ1億2000万円ずつ支払うことで和解した。金額の算定根拠は伏せられているが、当時ビルに残るテナントはミニストップのみだった。

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