不動産会社vs.テナント、「立ち退き料」の経済学 大規模な再開発の陰で立ち退き訴訟が増加中
建物への入退去を規定する借地借家法によれば、定期借家契約を除いて、テナントが契約更新を希望する限り原則としてビルオーナーは申し出を断ることができない。
それでも、再開発などの理由でテナントとの契約を更新せず立ち退きを求められるのは、「建物の現況をふまえて、建て替えによって高層化し経済性が高まるなど、テナントに移転を強いることになってもなお建て替えが合理的だと認められる場合に限られる」(不動産業に詳しい野田総合法律事務所の野田謙二弁護士)。そのうえで、テナントに強いられる移転費用や休業期間の機会損失を補償するために立ち退き料を支払う。
立ち退き料が曲者
開発現場においては、この立ち退き料が曲者(くせもの)だ。渋谷ストリームの開発をめぐって訴訟になった12件のうち1件では、入居していたパチスロ店は東急が提示した2371万円を突っぱねたばかりか、「立ち退きへの十分な補償が必要だ」との理由で逆に4億3739万円を突きつけた。
4億円以上もの乖離が生まれた原因は、内装工事や移転広告費などにそれぞれ1億円以上かかる、移転先の賃料が6倍に跳ね上がるといったパチスロ店側の主張によるものだ。
2014年2月、裁判所はこの主張を退けて東急側の金額を容認した。再開発事業という公共性が評価された形だ。一連の訴訟について東急は「コメントできない」としているが、そのほかの訴訟でも、東急は勝訴もしくは実質的に勝訴といえる形での和解を勝ち取っている。
他方で、テナント側が高額な立ち退き料を勝ち取った例もある。舞台は西武新宿駅から目と鼻の先に位置する歌舞伎町一丁目。東急レクリエーションらが地上48階のエンタメ施設を建設中だ。この地にはかつて、1956年に開業したエンタメ施設「新宿 TOKYU MILANO」があった。ビルは2014年に閉館し58年の歴史に幕を下ろしたが、水面下では3年以上前から建て替えに向けた立ち退き交渉を行っていた。
映画館やボウリング場などフロアの大半は東急レクの自営で、立ち退き対象となるテナントは少数。交渉は容易かに見えたが、すし屋や居酒屋など一部のテナントが建て替えに承知せず、やはり訴訟へともつれ込んだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら