ヤフーとLINE「統合」実現すれば何が起こるのか 交渉の事実は認める、カギはスマホ決済だ

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LINEペイには大きな強みがあります。利用者が約8000万人に上るLINEに、デフォルトでインストールされているので、新たに専用のアプリをダウンロードする必要がないのです。ここで導入店舗が一気に拡大すれば、ユーザーにとっての始めやすさ、使いやすさの点で、大きく前進します。

中国のテンセントをベンチマーク

LINEはコミュニケーションアプリを通じて、生活サービス全般から金融事業までを垂直統合しようとしています。ベンチマークしているのは、決済アプリ「ウィーチャットペイ(We Chat Pay)」が中国市場を席巻したテンセント(Tencent:騰訊)です。

中国のQRコード決済市場ではアリババの「アリペイ」が先行しました。ウィーチャットペイの登場はアリペイに遅れて9年後。アリペイの牙城は揺るがないものと当初は思われていました。

しかしウィーチャットペイはアリペイを凌ぐ勢いで浸透しました。すでにウィーチャットペイが逆転しているとの見方もあります。この勢いの差は、アリペイがECサイトと連動するアプリであるのに対し、ウィーチャットペイはコミュニケーションアプリに連動しているという違いによるところが大きいと私は見ています。

私たちがECサイトを眺めるのは買い物をする用事があるときに限られます。一方、コミュニケーションアプリは、友人・知人から連絡があるたび、こちらから連絡をしようとするたびに「毎日、何度も」開きます。コミュニケーションアプリを閲覧する頻度は、ECサイトを閲覧する頻度の何倍にもなるでしょう。

テンセントはこうして、利用頻度において絶対的な強みを持つコミュニケーションアプリをプラットフォームにして各種金融サービスを垂直統合し、さらにはそのほかの生活系サービスを充実させていきました。

LINEは今、従来のコア事業である広告に、これらフィンテックとAIを合わせた「戦略事業」の強化を図っています。

投資にも積極的です。2018年9月、LINEは第三者割当増資を行いました。そこで調達する資金の具体的な使途として挙げられているのは、フィンテック事業とAI事業でした。

ニュースリリースには「新しいインフラ確立を目指しているモバイル送金・決済サービス『LINE Pay』の決済対応箇所の更なる拡大、ユーザー数及び送金・決済高拡大のための広告宣伝費及び販促活動費」「今後展開を目指している金融関連サービスの立ち上げ及び運営に関わる運転資金、システムへの投資、人件費、各領域における国内外の戦略的融資」として約1000億円(2021年12月まで)を、また「自社製品である『LINE Clova』や関連サービスの開発のための人件費、外注費、広告宣伝費」に約480億円(2021年12月まで)を割く、とあります。

広告事業を継続して成長させていきながら、フィンテック事業とAI事業に対して戦略的投資を行う。ここからは、ポストスマホとしてのAIスピーカーというインフラを強化する意図、そしてLINEアプリ上に展開するフィンテック事業を強化する意図の2つが見えてきます。LINEはこれを「スマートポータル」戦略として整理しています。

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