ウォークマンには技術者として約20年携わりましたが、他社にシェアを奪われたことなど1カ月たりともありません。従来の製品や技術に置き換わるものをソニーの手で提供し続けられたからです。
たとえばCDウォークマン。据え置き型プレーヤーから体積を16分の1に小型化したばかりか、価格を3分の1以下にしました。CDはフィリップスと共同開発した技術規格ですから、フォーマットメーカーとして技術を大事にしろ、高く売れるものをみすみす値下げするなという声も社内にはありました。しかし事業化に成功したからといって、やれやれなどと言って安閑とする暇はないのです。小型化なんて自社がやらなければ他社がやるまでのこと。新しい技術や商品は必ず次のものに取って代わられる宿命なのです。
競争の土俵を変えてやらないとダメ
逆に先陣を切れば余禄がうんとある。大賀典雄社長(当時)はレコード業界を敵に回しても、CDで世界中を変えてやるという強い信念でした。その結果、CDは爆発的に売れ、プレーヤーもレコード盤もあっという間にCDに置き換わった。大賀さんは大局観のある人で、何かを商品化するときには「これは欧米や中国の人も喜ぶか」とデザインも含めて考える。日本でしか通用しないものはうんと後回しでしたね。
こう言っちゃあなんだけど、今のソニーは薄型テレビではすっかりやられちゃっている。片やパナソニックは、フラットなブラウン管テレビでソニーのベガシリーズにやられたから、今度はプラズマテレビをやってきたでしょう。ああいうふうに、土俵を変えてチャレンジするのが正解なのです。今のソニーに必要なのは他社の後を追うことではありません。テレビだったらもう液晶ではなく有機ELに切り替えるとか、まったく違うデバイスに挑戦して競争の土俵を変えてやらないとダメよ。
井深大さんの考え方がまさにそう。一度製品化すると「そうかい、よかったな」とあっさりしたもので、頭はもう次の製品や技術を考えている。私とは波長が合ったのか、井深さんは暇になるとすぐ電話をかけてこられました。秘書から「お父さんがお呼びですよ」と言われるので行ってみると、「次は何をやろうか」。そればかりでした。
井深・盛田・大賀の3氏の身近にいて、ものの考え方やセンスに「感化」されました。知識なんか本を読み人に話を聞けば身に付くけれど、本当にあこがれる人物に巡り合え、まねしたいと思えることは難しい。私は本当に恵まれていましたね。
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