ソニーの未来を悲観しない 元ソニー副社長・大曽根幸三氏④

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おおそね・こうぞう 1933年生まれ。56年日本大学工学部卒業、ミランダカメラ入社。61年ソニー入社。一貫してオーディオ畑を歩み、カセットテープからMDまでウォークマンシリーズの開発を指揮した。94~96年副社長。2000~02年アイワ会長。

副社長時代にテープ部門を立て直しました。任されたときには110億円の赤字でしたが、翌年には110億円の黒字にV字回復させました。簡単なことです。ビデオテープなど5種類ほど事業があったのですが、それぞれの事業トップを総入れ替えし、「コストを半分に、売り上げを倍にしろ。思い切ってやれ」と指示したのです。

 そのトップの1人が中鉢良治君(現副会長)。それまで彼は、窓際を通り越して“壁際族”の扱いでした。私はそういう連中の「圧力釜のふた」を取ったようなもので、彼らはしゃかりきになってアイデアを出してきた。たとえば5時間かけていたあるエージングテスト(経年変化試験)を1時間に大幅短縮した。材料も香港企業などから安く調達した。トップを替えると、今までの先入観やしがらみはなくなるものです。

トップに立つ1人か2人が企業を作る

ただこういった“ムダ取り”というのは、製造などルーチンワークの現場で技術がわかっている人間がやるから意味がある。にもかかわらず、管理畑の人間はどこへ行ってもムダ取りをしようとする。儲からない事業にもほかを助ける技術が埋もれているのに、「選択と集中」だなんて言ってやめさせて、全体までおかしくさせる。人間もムダのない緊張感の中で仕事をすると、失敗できません。ウォークマンでも何でも、新しいことというのは成功と失敗の確率が50%ずつです。失敗してはいけないとなると、まともに何かに挑戦する“バカ”はいなくなります。

何のムダを取るのかは、マネジメントする人間の考え方の問題です。つくづく上に立つ人間がいかに重要かを思い至らされますね。本をただせばソニーという企業そのものも、井深・盛田というトップの生き方、考え方が企業文化となった。自由闊達な社風と言いますが、あれは違います。社風ではなく「社長風」なのです。トップに立つ1人か2人が企業を作るのです。

今日はカメラマンの方が「笑え」と言うので笑っていますが、今のソニーを思うとそんな場合ではありません。心の底から悲しまなければならない。過去のマネジメントがもたらした自業自得かもしれません。ただ私は、ソニーの未来を悲観してもいません。インテリの妙な悲観論なぞに説得力を感じる人には、ある種の“後進性”を疑いますね。脳天気に見えるようでも楽観論が正しい。周りがどんなに不可能だと言っても、人間の英知と実行力をもってすれば成し遂げられることがあるとウォークマンで実体験しましたから。

週刊東洋経済編集部
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