400兆円ある企業の内部留保を死に金にするな 3000回以上も対話してきた伝説のCFOが叱る

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日本の経営者の間では、ROEは嫌いだがESGは好き、という経営者が多いようだ。だが、「木を植えました」ということを誇らしげに語っていても、ROEが8%以下、PBR1倍割れでは企業価値は高まらない。

世界の投資家は、日本企業に対してESGとROEを両立し、関連づけることを望んでいる。企業価値向上に定量的につながっていることが証明できるESGを求めている。

短期的な時間軸でみると、研究開発費や人件費を削ることで、ROEを高くすることは可能。しかし10年後も、その高くなったROEを維持できるかというと疑問だ。その点、長期の時間軸でROEの向上を図るとき、ESGと結びつけて改善することには、大きな意味がある。

では実際にどうROEとESGと結びつけることができるのか。伊藤教授は、キャッチーな造語を使うのが得意なので、「ROESG」という言い方をしている。財務戦略であるROEと、非財務戦略であるESGを、一体的に改善しようということだ。

ESGは人的資本や知的資本などインタンジブルなもの(無形資産)を重視する。こうした無形資産の価値が改善することは、すなわちPBR1倍という会計上の価値に対する付加価値を高めるということになる。

世代が変われば、日経平均4万円の可能性も

ここでエーザイの例を紹介したい。エーザイでは「ROESG」の考えを実際の事業に落とし込んでいる。

リンパ系フィラリア症という病気がある。これは熱帯地方で蔓延している感染症で、デング熱やマラリアのように蚊を媒介して感染する。感染すると、足が象のように腫れ上がってしまい、動けなくなってしまう。

ところが、患者の多くは最貧国の最貧層の方々。薬を作っても誰も買えないということで、製薬企業はどこも薬の開発をしていなかった。

そこでエーザイは、WHO(世界保健機関)とタイアップし、この病気の薬22億錠を供与するというプロジェクトを始めた。実際にエーザイ社員も関わって、現在では19億錠まで配布が済んでいる。

これはESGだが、単なる寄付の赤字プロジェクトではない。本業の一部でもある。

実は、このプロジェクトは管理会計上、2018年度に黒字化した。要因の1つは工場の稼働率。インドの工場で薬剤を製造しているが、22億錠というのはとてつもないボリュームなので工場稼働率が改善する。さらに、先進国で製造・販売していた薬も、インドの工場に製造移管して逆輸入をすることにした。すると連結全体で見た際の製造原価の低減にもつながる。

インド人スタッフのスキルやモチベーションも上がり、15%程度だった離職率が5%にまで低下しました。雇用や再教育に関するコストも低減させている。だから長期の時間軸では、「患者様貢献」というESG目標と、収益というROE目標を、両立するROESGプロジェクトになっている。

私が大学で学んだ1980年代には、あまりこういったROEや資本コストの考え方などは教えられていなかった。ただ、今では、当たり前のように教えられている。若いころにこうしたファイナンス理論を学んだ世代の人たちが経営者となる時代がもうすぐくる。

その時代には、ROEとESGの向上をセットで行うことで、外国人投資家が日本企業を評価する物差しが変化していくことだろう。今のPBR1倍というレベルではなくなり、PBR2倍、日経平均4万円の国になる可能性があると思っている。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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