400兆円ある企業の内部留保を死に金にするな 3000回以上も対話してきた伝説のCFOが叱る

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驚くべき事実がある。なんと、2019年3月末時点の銀行を除く上場企業の中で、およそ500社では、保有している現金や有価証券のほうが時価総額より大きい。理論的には、それらの企業を時価総額で買収した時点で、買収金額以上の現金が即座に手に入ることになる。さらに有利子負債を差し引いても、およそ200社で、時価総額よりも保有現金のほうが大きい。

なぜこんなことが起きるのか。1つには有価証券が企業同士での持ち合いに化けているため簡単に買収されることがないから。もう1つは日本企業が持っている現金そのものが過小評価されているということもある。

外国人投資家に対して、「日本企業の持っている100円をいくらで評価しますか」というアンケートを採ると、平均しておよそ50円と回答する。なんと、日本企業が持つ100円には50円の価値しかない、と彼らは考えている。

なぜなら、日本企業の多くは現金を溜め込んで、投資もしないし、株主に対して配当として還元もしないから。外国人投資家は、日本企業の保有現金は“死に金”になってしまうのでは、と懸念している。だから、日本企業が持つ100円を100円の価値で見ることができず、50円まで割り引かれてしまう。これが保有現金が時価総額よりも大きい企業がある大きな理由だ。

同じ内容のアンケートをアメリカの企業を対象にして行うと、1ドルは1ドルとして評価している、という調査結果も出ている。これが日米でのPBRの大きな差につながっている。

年齢層の高いトップに銀行ガバナンスの名残

これには日本独自の歴史的なバックグラウンドが大きく関係している。戦後の日本経済は貧困からスタートした。戦勝国のアメリカにカーネギーやロックフェラー、J.P.モルガンといった株式市場を支える大きな資本家がいたのとは対照的に、日本にはそういった資本家がいなかった。

では、何をもって高度経済成長を成し得たかというと、銀行ガバナンスという、資本主義の歴史とは一線を画した日本独自のユニークなモデルだった。一般投資家のいない日本では、背後には政府の意向があり、商業銀行が企業に対して大量に融資を行った。さらに、銀行から企業へ人材を出向させ、株式の持ち合いなどによって企業を支配していた。

すると、株式市場よりも銀行の目を気にすることになるので、ROEなどの資本効率を考慮した経営をする必要がない。一方で、借入金の返済や銀行から経営に口を出されないようにするため、キャッシュはあればあるだけよかったわけだ。

バブル崩壊後からは、銀行ガバナンスから株主ガバナンスに移り変わっていっているが、やはりまだ大企業の経営者の年齢層は高い。銀行ガバナンス時代の成功体験が意識にすり込まれている部分がある。そういった方々は、資本効率やROEの重要性について何となくわかってはきたものの、まだ腑に落ちないところもあるのだと思う。

加えて、株主の利益だけを追求するのではなく、非財務戦略としてのESG戦略の未熟さも、日本企業が過小評価される原因になっている。

ESGの考え方は今や一大ブームになっている。ESGの定義にもよるが、現在、世界の資本市場の3分の1を超える3000兆円以上のマネーがESG投資に振り向けられている、といわれているほどだ。

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