SNSに疲れた現代人に贈る「面白さ」の本質論 万人ウケする「面白さ」がすべてではない

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したがって、具体的かつ詳細になっていくほど「面白さ」は強くなる。一方で、それを「面白い」と感じる人が減っていく。鋭くとがった「面白さ」は、それだけ人を選ぶ。逆にいえば、大勢に向けて、誰にも受け入れられる広い「面白さ」は、その分どうしても鈍いものになりがちである。

とくに、最近ではちょっとしたことでクレームを招く。「これを見て悲しむ人がいる」とか、「教育上、子どもには見せられない」などだ。煙草を吸っている人が出てくる、というだけで全否定される場合だってある。そういったクレームを避け、当たり障りのないものを目指すと、ほとんど「面白くない」ものになることは確実だ。

古来、多くのユーモアは、少なからず差別的であり、戦争や死を扱ったブラックなものだった。差別を笑い飛ばしているのに、「差別で笑うとはなにごとだ」と真剣に抗議されれば、たしかに答えようがない。だが、そこが面白かったことは事実であり、大勢の人が笑ったことも、歴史的事実なのだ。

人が死ぬことをジョークにして、人間は笑えた。それで苦しんでいる人もいるじゃないか、という主張は正しいし、間違いなく正義だ。でも、正義では笑えない。こういった意味では、「面白さ」の一部は、明らかに反社会的である。それらは、隠れて楽しむしかないだろう。

「面白さ」は元気の源だ

さて、ここまで述べてきた幅広い種類の「面白さ」に共通するものは何か、と考えてみると、これらはいずれも、それを得ることでなんとなく自分が成長し、あるいは元気になれる。そして、結果的に自己の満足を導く。そういうものを摂取することが「面白い」と感じるように、人間の脳はできているようだ。

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脳が「面白い」「面白そう」と感じなければ、それらを得ようと行動を起こさない。それでは、生きていくうえで支障がある。生物の基本的な志向は、「生存」であるから、「面白い」は、実は生きることにリンクしている。「元気が出る」というのも、脳が「面白そう」と感じた状態といえる。

したがって、人生をどう歩めばいいのか、どんな生き方が面白いのか、といった方向へ話が及ぶことになる。結局、生きるとは、「面白さ」の追求でもある。「面白い」ことを見失ったら、生きていけないのではないか。

森 博嗣 小説家、工学博士

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もり ひろし / Hiroshi Mori

1957年愛知県生まれ。某国立大学の工学部助教授の傍ら1996年、『すべてがFになる』(講談社文庫)で第1回メフィスト賞を受賞し、衝撃デビュー。以後、犀川助教授・西之園萌絵のS&Mシリーズや瀬在丸紅子たちのVシリーズ、『φ(ファイ)は壊れたね』から始まるGシリーズ、『イナイ×イナイ』からのXシリーズがある。ほかに『女王の百年密室』(幻冬舎文庫・新潮文庫)、映画化されて話題になった『スカイ・クロラ』(中公文庫)、『トーマの心臓 Lost heart for Thoma』(メディアファクトリー)などの小説のほか、『森博嗣のミステリィ工作室』(講談社文庫)、『森博嗣の半熟セミナ博士、質問があります!』(講談社)などのエッセィ、ささきすばる氏との絵本『悪戯王子と猫の物語』(講談社文庫)、庭園鉄道敷設レポート『ミニチュア庭園鉄道』1~3(中公新書ラクレ)、『「やりがいのある仕事」という幻想』『夢の叶え方を知っていますか?』(ともに朝日新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』(新潮新書)など新書の著作も多数ある。

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