関電不祥事を機に原発は消滅の道をたどる 専門家に聞く、関電「金品授受問題」の本質

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──森山氏が金品を配った動機をどのようにみていますか。

電力会社は、「立地対策」としてさまざまな形で地元にお金を流してきた。これは関電に限らず、ほかの電力会社でも共通している。一方、今回の場合、なぜ電力会社の幹部に地元の関係者から金品が流れたかだ。

森山氏には、通常のルールでは40年で廃炉になる高浜1、2号機を存続させようという動機があったのではないか。40年を超えて稼働を続けるには、安全対策に多額の投資が必要になる。

橘川武郎(きっかわ たけお)/1951年生まれ。東京大学教授、一橋大学大学院教授などを経て、2015年から東京理科大学大学院教授。総合資源エネルギー調査会委員。新著(共著)に『LNG 50年の軌跡とその未来』(撮影:尾形文繁)

一方、稼働延長は、既設の原発を閉鎖して建て替える「リプレース」と比べた場合、危険性の低下には限界がある。

関電にとってベストな選択は、高浜1、2号機の稼働延長ではなく、(高浜とは別の拠点である)福井県美浜町にリプレースとして4号機を建設する方法だったと思う。セカンドベストは、現在、存在している原発のリプレースをせずに、高浜1、2号機よりも出力が大きく、相対的に新しい大飯1、2号機の稼働期間を延長する方法だ。

これらの方策でもなく、年数のより古い高浜1、2号機の稼働延長を決断したことと、金品の受領にどのような関係があったのか。新たに設置された第三者調査委員会によって解明されるべきだ。

森山氏にとってみると、高浜1、2号機が稼働し続けることは、地元での仕事を増やすことになるとともに、自らの利権の維持につながる。反面、関電にとっては、経済合理性の観点から疑問がある。

「ゲームチェンジャー」がいなくなった

──今回の不祥事が原子力政策に及ぼす影響は。

極めて大きく深刻だ。3月に私が原子力発電部門のトップを務めていた豊松氏(当時)に会った際、「今年中には絶対に美浜でのリプレースを明らかにしますよ」と断言した。今になって思えばどこまで本気の発言だったのか疑問もあるが、その豊松氏が株主総会を機に退任し、今回不祥事が発覚して処分された。

原発の新設やリプレースに首相官邸や経済産業省が及び腰であり続けている中で、それを言い出せるのは、原発事故で東京電力なき後の盟主ともいえる関電しかなかった。ところが、そうしたゲームチェンジャーの役割を担うはずの人たちが、豊松氏を含めて皆いなくなってしまった。このことは、原発の今後に計り知れない影響を及ぼす。

政府は2050年までに温室効果ガス排出量の8割削減の方針を掲げるとともに、原発を脱炭素化の有力な選択肢の一つだとしている。そのためには原子力の発電能力を維持しなければならない。目標の実現は古い原発を閉鎖するとともに、新しくて危険性が相対的に少ない原発へのリプレースなしでは不可能だ。

それが今回の不祥事によって困難になってしまった。このままでは稼働期間を終えた原発が消えていく一方でリプレースも進まず、原子力はやがて野垂れ死にするのではないか。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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