セパージュ時代の到来(2)作品第一:オーパス・ワン《ワイン片手に経営論》第16回

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■オーパス・ワン

 「二つの異なるワイン文化と二つの異なる将来展望が出発点でした」

 ムートン・ロートシルトのワイン醸造家であるパトリック・レオン氏の言葉に象徴されるように、このジョイント・ベンチャーは、ある意味壮大な実験でした。フランス人とアメリカ人が協力をしながら、カベルネ・ソーヴィニョンという品種を主体に、カリフォルニアの地で、最高級のワインを造ろうというのです。オーパス・ワンの「オーパス」はラテン語で「作品」という意味で、「オーパス・ワン」には「作品第一」という意味がこめられています。

 この実験が成功するということは、フランスという土地から離れても、カベルネ・ソーヴィニョンという品種から秀逸なワインを造ることができるということを示唆します。テロワール主義的発想を否定し、セパージュ主義的発想を肯定するということです。ムートン・ロートシルトというフランスでも最高級のワインの造り手。そしてロバート・モンダヴィというアメリカでも屈指のワインのパイオニア。この二人がタッグを組んで取り組むわけですから、実験の質の高さは折り紙つきで、正当な検証として受け取れるものです。

 オーパス・ワンの役割分担は、次のように行われました。ロバート・モンダヴィは、ブドウの供給、醸造はロバート・モンダヴィ・ワイナリーからロバート・モンダヴィの息子のティム・モンダヴィ、ムートン・ロートシルトからは技術所長のルシアン・シオノーの両ワイナリーの担当者がその任につきました。熟成に使われる大樽はシャトー・ムートン・ロートシルトの在庫を使うことになりました。

 目指すワインの味わいは、ボルドー風で、使用する品種もボルドーで使われているカベルネ・ソーヴィニョンを主体に、カベルネ・フラン、メルローを補助品種として使用することにしました。なお、ジョイント・ベンチャー設立当初は、これらの3品種でワイン造りをしようと計画したようですが、現在では、プチ・ヴェルド、マルベックといった品種も使われています。これらの品種もボルドーで認められている品種です。

 更に両者は次のようなことも取り交わしていました。ジョイント・ベンチャーによるワイン造りが失敗する、もしくは何らかの理由で販売できなくなった場合には、ロバート・モンダヴィが自社の名前で抱えた在庫を売りさばなくてはならないということになっていました。ムートン・ロートシルトは、伝統的なだけでなく、フランスを代表する自らのブランドを失敗のリスクにさらすことは避けたというわけです。

 以上のように、ジョイント・ベンチャーの大きなスキームが決まった後、ルシアン・シオノーとティム・モンダヴィは、定期的に会うようになりました。まず、ルシアン・シオノーは、最初に125種類のカベルネ・ソーヴィニョンから、オーパス・ワンに相応しい品種を選定することから始めています。そして、両者はお互いの違いを認め合いながら、仕事を進めて行きました。

 「わたしたちはムートンにアメリカ式ビジネスを教え、彼らは私たちにフランス流のワインづくりを教えてくれた。」
by ロバート・モンダヴィ

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