「塾の信者」になった親が子どもをつぶす実態 中学受験ははたして教育虐待なのか

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「ひょっとして、長文問題の1問、手つかずだったんじゃないの?」
「そうなんです。なかなかスピードについていけないんです」
「手をつけた問題はとれているということだよね。手をつけた160点満点のうち140点とれているということだよね?」
「まあ、そうなんです。ただ長文になると遅いんです」
「長文の対策をやってるの?」
「いや、うちの予備校では秋以降なんです」

予備校に前年の1年間通ってひと通り勉強しているのですから、自分の課題が「長文を速く読むこと」とわかっていれば、秋まで待たず、すぐに勉強を始めなければいけません。その子は律義に予備校のカリキュラムどおりに勉強しているため、毎年不合格となっているのです。

なぜ親は「塾の信者」になってしまうのか

予備校や塾のカリキュラムが一人ひとりの生徒の課題に向き合うことは難しいでしょう。生徒は律儀にカリキュラムを信じて、それに合わせて、ミスマッチなことをしているのです。私と話をしたときに、ある程度は勉強方法を改善したのですが、結局その1年間は予備校に通ったため1次試験までは受かったものの、やはり2浪目も全滅となりました。

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そこで3浪目に私が主宰する緑鐵(りょくてつ)受験指導ゼミナールに入り、予備校には通わず、私の通信教育から出された、その子に合わせた宿題を勉強していたら、奨学金がもらえるほどの好成績で、第1志望の学校に合格しました。本来、受験指導ではその子に合わせた課題を出すのは当たり前なのですが、世の中の親の90%は当たり前のことをせず、カリキュラムの合わない塾に通わせます。

塾のカリキュラムが合わず成績が伸びなかったときはもちろん、カリキュラムが合って成績が上がったときも、気をつけるべき点があります。それは、自分のやるべき課題を、自分で考える習慣を奪うことです。これが大人になってから、「東大を出たのに使えない人」の元凶になります。

なぜ親は「塾の信者」になって、子どもを傷つけてしまうのでしょうか。あるいは、子どもの将来の芽を摘んでしまうのでしょうか。親の意識が変わったとき、子どもの勉強に対する意識も変わり、志望校合格もぐんと近づいてくるのです。さらに、大人になったときに出くわすさまざまな課題に対応できる人間になれるポテンシャルがぐっと上がるのです。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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