脳機能の低下を防ぐには「手書き」が有効だ

「あれなんだっけ」が増えていませんか?

記憶の解説について続けます。

脳には「ワーキングメモリ(作業記憶)」という領域があります。

日常生活で何か情報が入ると瞬時に情報を記憶から取り出し、同時に処理する能力をつかさどっているのが、ワーキングメモリです。いわば「脳の司令塔」ともいうべき存在です。 

このワーキングメモリの処理能力は、50代ともなるとピーク時よりも30%も低下してしまうのです。司令塔の情報処理の能力が衰えると、その他の選手たちが能力を発揮できないのは、野球やサッカーなどに置き換えるとわかりやすいのではないかと思います。いくらいい選手がいても、その能力を生かせないのでは、それぞれの選手の個性や能力が生かしきれないのと同じ。

つまり、脳の中では、ワーキングメモリという司令塔が日々、脳を円滑に働かせるために動いているのです。デスクワークしながら受ける電話、届くメールやLINE、上司からの突然の呼び出し。さらには、プライベートの突発的なハプニングも。

ここで、しっかり覚えておきたいのはワーキングメモリが果たす機能です。

その1 情報を受け、一時的に保存する
その2 情報に優先順位をつけてから処理すること

日頃の会話を思い出してみてください。「お休みは何をしてたの?」「今日は、何があったの?」「ランチは何を食べたの?」など、何でもない会話が成り立つ理由は、ワーキングメモリのなせる技です。

そう考えると、あなたのすべての行動や思考にワーキングメモリが関連しているということがわかりますよね。

ワーキングメモリの限界を知っておこう

しかし、ワーキングメモリには、限界があります。というのも、ワーキングメモリが同時に処理することのできる情報は意外に少なく、せいぜい5つから7つ前後だということがわかっているのです。

私たち人間は、年齢を重ねるごとに経験が増えていき、抱えている情報も増えていく一方です。同時に、ネット検索などで知識として蓄えようとする情報量も増加の一途をたどるばかりです。

多くのことを学び、経験し、脳に記憶として蓄積しようとする人間と、加齢により働きが落ちていくワーキングメモリ。この反比例こそが、「あれあれ症候群」を引き起こす大きな原因となるのです。

ワーキングメモリの働きが落ち始めると、必要なときに必要な情報が引き出せなくなり「あれあれ症候群」が始まります。それは思考力や知的生産を行う力が低下し始めたというシグナルであり、イエローカードなのです。

「年齢を重ねると新しいことは覚えられない」という人が増えています。けれど、専門医として臨床の場に立ち、脳の研究を続けてきた立場からすると「覚えたことが的確な場所で引き出せない」と言ったほうがしっくりきます。

日常生活の中で「あれ、なんだっけ?」をなくし、記憶を引き出すために有効な方法が、手で文字を書くという行為になります。

次ページ脳を活性化させる「手書き」の3つの効用
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