ファンから観たプロ野球の歴史 橘川武郎/奈良堂史著 ~歴史・経営分析を通じ危機説に示唆に富む反論

ファンから観たプロ野球の歴史 橘川武郎/奈良堂史著 ~歴史・経営分析を通じ危機説に示唆に富む反論

評者 中村宗悦 大東文化大学経済学部教授

 近年、「プロ野球危機説」がまことしやかにささやかれている。いわく、「野球はサッカーに負けている」「大リーグへの人材流出が甚だしい」「プロ野球中継が減っている」「赤字球団が大半である」。本書は、これら「プロ野球危機説」に対して、プロ野球70年の歴史分析・経営分析から、説得力と示唆に富む反論を加えている。

さらに、時代の流れと経営モデルの変遷という視点のみならず、プロ野球の歴史を大きく変えてきたと思われる名試合・名勝負についての、ファン目線からの語り口がエキサイティングである。たとえば、1993年の日本シリーズ、ヤクルト対西武の第4戦。ヤクルトが川崎-高津のリレーで逃げ切り、1対0で勝利した試合に、著者たちは西武の黄金時代を築いたデータ重視の「管理野球」からデータを応用する野村「ID野球」への転換の象徴を認める。

実は、こうしたディテールの描写について読者の共感を得られるところに、日本のプロ野球ファン層の広さと深さ、すなわち日本プロ野球の強さもあると評者は思うのだが、それにしても、個別ゲームの分析やペナントレースの動向を振り返りつつ、それを「マクロ」的なプロ野球全体の経営分析と結び付け、ズレをまったく感じさせずに叙述する筆致は見事である。

「第�章 日本プロ野球再生への道」では、上記の歴史的分析を踏まえつつ、具体的に今後日本のプロ野球が進むべき道が提示されているのであるが、その内容については、是非、本書を一読していただきたい。

これまでプロ野球の歴史については数多くの本が書かれてきたが、ファンの目線で、しかも経営史家、経営学者による分析は初めてであろう。本書がプロ野球発展のための議論の土台となることを期待したい。

きっかわ・たけお
一橋大学大学院商学研究科教授。専門は経営史 。1951年和歌山県生まれ。東京大学社会科学研究所教授などを経る。

なら・たかし
横浜市立大学大学院経営科学専攻博士後期課程、横浜商科大学非常勤講師。専門は経営学・スポーツビジネス論。1979年神奈川県生まれ。

日本経済評論社 1890円 226ページ

  

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