セパージュ時代の到来(1)前夜:パリの試飲会《ワイン片手に経営論》第15回

■セパ-ジュ主義がテロワール主義に勝利した瞬間

 まず、白ワインの審査結果は、出品された10本のうち、アメリカ・ワインは、1、3、4、6、9、10位でした。オリンピック形式でいくと、金メダルと銅メダルをアメリカ・ワインが獲得、フランス・ワインは銀メダルに終わったのです。白ワインの評価結果発表後の審査員の様子は、「ショックを受けたり、恐怖に顔が引きつったりと様々だった。予想外の結果に部屋の中が騒然となる(*1)」

 白ワインの評価結果は、次の赤ワインの試飲に関して、少なからずフランス人の審査員の心理に影響を与えたと考えられます。カリフォルニア・ワインに対してより厳しい目(鼻と舌?)が注がれたことは想像がつきます。そして、赤ワイン10本の試飲結果は、アメリカ・ワインが、1、5、7、8、9、10位でした。

 そうです、赤白ともにアメリカ・ワインが金メダルを獲得したのでした。千年以上の伝統をもつテロワール主義的ワインに対して、数十年間、科学的研鑽を行いながら進化してきたセパージュ主義的ワインが勝利を収めてしまったのです。

 これは、フランスの名士たちにとってショッキングな出来事でした。赤ワインの試飲結果発表直後、審査員のオデット・カーン氏は、スティーブン・スパリュア氏に詰め寄ります。

「スパリュアさん、私の採点表を返却していただけませんでしょうか?」
「カーンさん、誠に申し訳ありませんが、お返しいたしかねます」
「でも、わたしの採点表でございましょう?」
「いいえ、カーンさんの採点表ではなく、私の採点表です。」
スパリュアは、採点表の束をアルバイト嬢の手に押し込み、すぐに、アカデミー・デュ・ヴァンへ持って帰るように言いつけた。 (以上*1)

 脅威(フランスにとってですが)は突如としてやってきました。フランスにワインが伝来してから、千年以上かけて築き上げてきた「世界最高のワイン」といわれる名声を揺るがす出来事がおきたのです。アメリカからみると、フランス・ワインに敵うべくもないと思っていたところが、突然勝利してしまいました。この「パリの試飲会」は、後から振り返って初めて、歴史的に重要な転換点であったことがわかるのですが、その歴史の中の主役たちは、「テロワール主義」が「セパージュ主義」に挑戦される場に居合わせていたとは考えていなかったでしょう。この試飲会は、ワイン業界で起きていた大きな胎動が、目に見える形になった瞬間であったのです。
*1 
ジョージ・M・テイバー、『パリスの審判 カリフォルニア・ワインVSフランス・ワイン』、日経BP社
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