大日本住友、「3200億円巨額買収」の皮算用 主力薬「ラツーダ」後の大黒柱を確保できるか

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レルゴリクスは武田薬品工業が開発し、ロイバント社がライセンス契約したものだ。日本ではすでに中堅メーカーのあすか製薬が武田から導入して2019年3月に発売。10年後のピーク時売上高は56億円と予測されている。

ビベグロンもアメリカのメルクが開発し、ロイバント社が導入した。日本では2018年11月から杏林製薬がメルクから導入して販売しており、ピーク時売上高は10年後に185億円と予測されている。ロイバント社は両製品ともに日本より市場が大きいアメリカでの発売を見込むとはいえ、すでに類似薬もあり、それぞれ1000億円規模の製品に成長するかは不透明だ。

大日本住友の野村博社長は「(ロイバント社が開発中の新薬は)それぞれ1000億円の売上高のポテンシャルがある」と自信をみせる(記者撮影)

仮にラツーダ分の売上高をカバーできたとしても、レルゴリクスもビベグロンも他社開発の導入品で、売上高に応じたロイヤルティを武田やメルクに支払うことになる。自社開発のラツーダほど利益率はよくない可能性が高い。

また、子宮筋腫向けのレルゴリクスは婦人科領域。過活動膀胱薬のビベグロンは泌尿器領域。いずれもこれまでの大日本住友が注力してこなかった領域だ。精神・神経領域で築いてきた大日本住友の営業体制をそのまま活用できるわけではなく、どこまで販売体制を整えられるのかわからない。

巨額買収に透ける大日本住友の焦り

大日本住友は従来、2022年度までにM&Aに3000億~6000億円を投じると公言していた。ただ最優先にしていたのは、強みの精神・神経領域の補完やがん領域の立ち上げだ。それらと異なる分野に資金を投じる今回の巨額買収からは、大日本住友の焦りが見える。

ただ、ロイバント社が得意とするデータ分析技術を用いた創薬手法は期待できる。製薬企業は新薬になりそうな候補物質を公開データベースに登録するが、自社の営業体制などを考えて開発を断念するものが数多くある。ロイバント社はそうした候補物質の中から有力なものを探し出すことに長けている。

また、どういった状態の患者を対象にすれば治験が成功しやすいのか、といった情報を公開データの中から探し出すノウハウを持ち、治験の効率化にもつなげている。

ロイバント社が創業からわずか5年で治験第2相・3相の候補薬を複数生み出せているのは、こうしたデータ分析よる創薬ノウハウがあるからだ。大日本住友の今回の買収費用3200億円には、ロイバント社のそうした創薬手法やそれに詳しい人材を活用できる権利も含まれている。

「獲得した技術を創薬や治験に役立てていく」と野村社長は自信を見せる。新薬を生み出す難易度が上がっている中で、新しい創薬アプローチを獲得することは、中長期の成長を考えたうえでは不可欠でもある。

ラツーダ特許切れ影響の克服という意味では疑問が残る今回の買収劇。成功という評価を得るには、手に入れた新しい創薬ノウハウで、本当に新薬を続々と生み出せるかどうかにかかっている。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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