子どもを「薬漬け」にする児童養護施設の現実 6年間、向精神薬を服用していた女性が語る

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児童養護施設は保護者のいない児童や虐待されている児童を入所させ養護する施設で、児童相談所の決定で入所が決まる。原則1歳から18歳までが対象で、全国605施設に約2万5000人が入所している。

厚生労働省の調査によれば、児童養護施設に入所している子どものうち約6割は虐待を受けた経験がある。また入所しているうち、障害のある子どもの割合は3割近くまで増加している。うち、先の女性のようなADHDと診断された子どもは、10年前と比べ約2.6倍に膨らんでいる。

「10年前は、ADHDと診断され向精神薬を服用していた子どもはせいぜい1~2人だった。服薬が増えたのは6~7年前から。精神科の医師と連携を図るようになってからだろう」。都内で児童養護施設を運営する施設長は実情を語る。現在、同施設の入所者約50人のうち約半数にADHDなどの発達障害や知的障害がある。また3割弱が向精神薬を服用しているという。「以前は児童の衝動的な暴力にも職員が対症療法で対応するしかなかった。医師との連携で選択肢が増え、ケアの質が高まった」と話す。

東北文教大学の吉田耕平講師の論文「体罰から向精神薬へ」(2019年)によれば、同氏が調査した児童養護施設では、2017年時点で入所している子どもの34.3%がコンサータやストラテラなどの向精神薬を服用しており、診断名はADHDがほとんどだったという。先の都内の児童養護施設と、置かれた状況はかなり近い。

向精神薬の服用率はこの10年で急増

2007年に厚労省が行った全国調査では、児童養護施設に入所している子どもの向精神薬の服用率は3.4%なので、この10年で急増していることになる。嘱託医として精神科医が介入するようになり、児童養護施設の職員の間でADHDに関する認識が広がったことが一因とみられている。

「高校生や中学生の男子が、施設のほかの児童を傷つけたり物を壊すといった問題行動を起こした場合、女性職員だと正直制止できない。施設は多くの児童の生活の場であり、平穏な生活を守るためにも専門医による一定の医療的ケアは欠かせない」。別の都内の児童養護施設の元職員はそう話す。

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