子どもを「薬漬け」にする児童養護施設の現実 6年間、向精神薬を服用していた女性が語る

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医療経済研究機構が2014年に発表した研究によれば、2002年~2004年と2008年~2010年を比較すると、13~18歳ではADHD治療薬の処方割合は2.5倍増となった。また向精神薬の併用処方が高頻度で認められた。担当した奥村泰之氏(現・東京都医学総合研究所主席研究員)によると、精神疾患による未成年の受診者の増加、子どもの精神疾患に対応できる医師や医療施設の増加、新薬承認の影響が要因だとされる。

子ども本人の意に反しての強要

もちろん、医療につながることで薬物療法により情緒や生活の安定が図られるメリットは大きい。しかし他方で子どもたちの問題行動を抑制するための手段として安易に用いられるのだとしたら、人権侵害につながりかねない。とりわけ施設においては、その力関係から子ども本人の意に反しての強要が起こりやすいためだ。

「施設職員の多くが、ものすごい大声で子どもを怒鳴り散らすなど気性が荒く、下手をすれば虐待ではないかと思うような扱いも少なくなかった」。先の元職員は語る。「夜中に子どもが廊下で泣いているので、どうしたのと頭をなでたら、先輩職員から『寝る時間なのにいつまでも寝ないから追い出したんだ。余計なことはしないでいい』と自分が怒鳴られたこともあった」(同)。

「私語厳禁で、食事中にほかの子と目が合っただけで怒鳴られた。まるで刑務所のようだった」。児童相談所の一時保護所に入った経験のある女性(25歳)は当時の状況を語る。一時保護所は冒頭の16歳の女性も利用した、虐待などを理由に児童相談所に保護された子どもが最初に身を寄せる施設だ。

「携帯電話や財布、私服はすべて没収された。学校は無断欠席扱いにされ、脱走したら警察に通報すると誓約書まで書かされた。職員はとにかく高圧的、支配的だった」。女性は結局、虐待された家庭へと戻る道を選んだ。こうした環境下で、施設職員が求める向精神薬の服用を断る選択肢が子どもたちにあるだろうか。

子どもの権利条約の制定に伴い、体罰の禁止や児童虐待の防止への社会的関心は高まった。だが、施設における子どもの問題行動への対処が、単に向精神薬など薬物療法に切り替わっただけなのだとしたら、問題の本質は何ら変わっていない。

本記事の全文は週刊東洋経済プラスで公開している。

『週刊東洋経済』9月21日号(9月17日発売)の特集は「子どもの命を守る」です。
風間 直樹 東洋経済コラムニスト

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

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