大規模停電で千葉「生乳産地」が重大事態 停電で搾乳不能に、離農を検討する農家も

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ただ、ディーゼル発電機を所有していた酪農家でも苦労は絶えない。「東日本大震災の時だって停電はせいぜい1日だけだった。75歳になるが、南房総でこんな大きな台風や長期停電は初めてだよ」。南房総市の山田地区で祖父の代から酪農を営む奥澤捷貴さん(75歳)は今回の台風のすさまじさをこう語った。

かつて千葉県酪農農業協同組合連合会の会長を務めた奥澤さんは、東日本大震災の後、地域の酪農家に補助金を活用したディーゼル発電機の購入を呼びかけた。その奥澤さんも、今回の停電対応には「疲れ果てた」と語る。

「ディーゼル発電機の稼働で搾乳機や冷凍機に電気を送ることはできたが、搾乳機の洗浄に必要な水道水が復旧していない。水道の復旧には、電力の復旧が必要だという。山から湧いている水を使ったが、砂利などがパイプに詰まって、搾乳機が頻繁に止まってしまう。やむをえず、業者に何度も来てもらっている」(奥澤さん)。

奥澤さんが搾乳をできたのは、台風襲来による停電発生から20時間後のことだった。しかし、短期間でも停電によるダメージは大きかった。奥澤さんは「その間に牛の乳房が張って、痛え痛えって鳴くんだ。わずか1日、搾乳できなかっただけで3頭が乳房炎にかかってしまった。その牛の分は出荷できないから生乳を廃棄している。停電さえ起こらなければ、こうはならなかった」という。

台風と停電による被害が大きい南房総市、館山市、鋸南町、鴨川市の酪農農家が牛乳を出荷している千葉県みるく農業協同組合南部支所によれば、台風襲来前の9月8日時点で71トンあった1日の生産量は、台風から2日後の11日に34トンまで落ち込んだ。16日現在でも59トンにとどまるという。

長期化する停電に「離農を検討している」の声も

みるく農協南部支所には停電に苦しむ酪農家の声が多く報告されている。

「ディーゼル発電機は導入していたが、搾乳機と冷凍機、ファンを1度に動せば、電力が足りなくなる。まずは搾乳し、次に牛の体調を考慮してファンを回したが、その間に(冷凍機が動かないため)牛乳が腐ってしまった」

「(このままでは)息子たちに給料を払うのも厳しくなる」と表情を曇らせる黒川一夫さん(記者撮影)

「餌代は毎日かかるが、出荷量の減少により現金収入が著しく減っている」

「乳量を抑えようと餌を減らしているが、牛の体調が回復するまで少なくとも半年かかる。そこまで資金が持ちこたえられるか。離農も検討している」

冒頭の黒川一夫さんも先行きを危惧している。

「1日1回の搾乳しかできず、牛に大きなダメージを与えてしまった。ファンを回せなかったので熱中症のような症状が出た牛もいる。今いる牛がダウンしてしまうと次のお産が遅れ、乳量の回復も難しくなる。息子たちに給料を払うのも厳しくなる」

一日も早い停電の解消が求められている。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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