MMTの命題が「異端」でなく「常識」である理由 「まともな」経済学者は誰でも認める知的常識
アメリカの政府債務の総額は、とくにトランプ政権成立以降急激に膨らみ、今や日本の倍に達している。日本の左派・リベラル派の中には、民主党の左の端にしてトランプ政権への最も熾烈な批判者であるオカシオ=コルテスであるなら、さぞかしこの財政毀損をケシカランとたたくであろうと期待した向きがあったのではないだろうか。
あにはからんや、彼女は当選後、ウェブ雑誌『ビジネス・インサイダー』のインタビューで、「政府は予算のバランスをとる必要はなく、むしろ財政黒字は経済に悪影響を与える」とするMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)こそ「絶対に」「私たちの言論の中にもっと広がる」必要があると語ったのだ。
彼女のMMT支持発言をきっかけに、アメリカではこの学説をめぐる議論がマスコミを舞台に盛り上がり、それは例によって日本にも波及した。
大マスコミも大臣たちも有名エコノミストたちも、やっきになってこれをトンデモ扱いし、ついには財務省が、海外の経済学者17人の非難を並べ、グラフ30枚以上、表もイラストも駆使したスライド62ページにわたる本気の反論資料を発表するに至った。
奇妙なのは、それに対してMMT支持を表明した論客や政治家は、保守派ばかりだったことだ。世間で左派サイドとみなされる政治家でその主張内容に支持を表明したのは現在のところ、「れいわ新選組」代表の山本太郎ただ1人である。
そのような中、本家アメリカでは、MMTの代表的論客の1人であるステファニー・ケルトンが、バーニー・サンダースの政策顧問に就くと報じられた。もともと彼女は、2016年の大統領選挙のときにも、サンダースの経済政策顧問を務めていた。
またその前年2015年には、イギリス労働党党首選で、最左翼で泡沫候補と見られていたジェレミー・コービンが圧勝しているが、そのときの目玉公約であった「人民の量的緩和」は、MMTの財政学者、リチャード・マーフィのアイデアであった。
このように、MMTは、生地米英では急進左翼系の経済政策のバックにある経済理論の1つとなっているのだが、なぜか日本ではそうなっていない。私はMMT論者ではないが、このことは異常なことだと思っている。
「異端」扱いの標準的経済理論
しかし、MMTに対してろくに読まないわら人形論法的批判や無理解が絶えないのは、本人たちが招いている面もあるように思う。主流新古典派の経済学者や共和党緊縮政治家に罵倒されることは本望なのかもしれない。
しかし、欧米の反緊縮左派世界の中で、少なくとも当面の経済政策主張がほとんど変わらないニューケインジアン左派などとの間でも、論争が対話不可能になる印象がある。
そもそもMMT論者は、自分たちの主張をわざと「異端」と位置づけているかのような言い方をする。既存の経済学がことごとく根本的に間違った前提の上に立っていて、自分たちの見方をとることで初めて真理が見えるというような。そこで批判された側もマスコミも、その自称を真に受けてMMTを異端の経済学と扱うわけである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら