「スパイダーマン」巡るSONYとディズニーの確執 「アベンジャーズ」登場危ぶまれるスパイディ

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さて、再び一人占めできるようになった今、ソニーは『スパイダーマン』をどう育てていくのだろうか。もちろん苦労はあるだろうが、一方で希望もある。

その根拠は、『スパイダーマン:スパイダーバース』と『ヴェノム』の成功だ。マーベルの関わり一切なしで製作した『スパイダーマン:スパイダーバース』は、主人公を黒人にするなど斬新なアプローチも評価され、ディズニー、ピクサーを制し、長編アニメ部門でアカデミー賞を獲得した。

勢いを受け、今作のクリエーター、フィル・ロードとクリス・ミラーのコンビは、今、『スパイダーマン』のキャラクターを使った新たなテレビ番組を手がけているところである。

また、批評家受けはしなかったものの、『ヴェノム』は、全世界で8億ドル以上を売り上げ、来年にはもう続編の公開が決まっている。『ヴェノム』も、『スパイダーマン』に属するキャラクターのひとりを主人公にしたもの。こうしたキャラクターは900人ほどもいるらしく、ソニーは、これから独自のスパイダーマン・シネマティック・ユニバースを作っていくことが可能なのだ。

しかも、それを自分たちのペースでやることができるのである。MCUだと重要なキャラクターが多すぎて、『スパイダーマン』ですらそのうちのひとつになってしまう。ディズニーの20世紀フォックス買収で、『X-MEN』『ファンタスティック・フォー』も手に入った後だけに、なおさらだ。自分たちでやるなら、順番待ちはない。

スパイダーマンの未来はいかに

とはいえ、マーベルのファイギは、現代のハリウッドで右に出る者がいないすご腕プロデューサーだ。彼のまねをするのは、決して容易ではないだろう。逆に、ファイギがこれからどのようにあのユニバースを進めていくのかも、気になるところである。

MCUにおけるスパイダーマンの存在は、どうなるのか。この先、どこかで、彼がどうなったのかを言及するシーンを作るのか、あるいは、このまま何も言わずに、彼なしの世界を展開していくのか。

どちらの前にも、乗り越えるべき試練は待ち受けている。しかし、この件はいわば生みの親と育ての親の親権争いで、結果が出た以上、受け入れて進んでいくしかない。大事なのは、子供の健康と、未来だ。その子供、つまりスパイダーマンにとって最高の環境が作られるのであれば、これからも観客はきっと応援してくれるはずである。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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