人はなぜ年金に関して間違えた信念を持つのか

もうすぐ始まる年金報道合戦に要注意!

年金報道の世界というのは、こういうものである。特に日経新聞の年金誤報はひどく、昨年2018年7月25日に書いた「社会保障への不勉強が生み出す『誤報』の正体――名目値で見ても社会保障の将来はわからない」には次のようにも指摘している。

まずは、間違い探しから始めてみようか。次の3つの記事は、日本経済新聞の社説からである。
「社会保障給付費の長期推計は、このままだと医療・介護や年金を持続させられないおそれを映し出した。(中略)年金と医療・介護、育児支援などを合わせた給付費は現在121兆円強。厚労省と財務省などが一定の前提をおいて推計した結果、2040年度に190兆円となる。およそ70兆円の増加だ」(2018年5月22日)
「(2009年2月の年金財政検証での)苦肉の策は、積立金の運用利回りを4.1%と高めに想定したことだ。2004年時点の想定は3.2%、実績は2001~2007年度の平均で2.3%だった。(中略)どうみても過大だろう」(2009年2月24日)
「2009年の検証では、年金積立金の超長期の運用利回りを標準ケースで年4.1%に設定した。これは『現実的でない、甘過ぎる』という強い批判を浴びた」(2014年3月8日)
いかにももっともらしく見えるが、これらの記事には実に面白くはあるが罪深くもある間違いが含まれている。しかもその間違いは、根底において原因が同じである。

なぜ、この文章が間違いなのかは、上述の東洋経済オンラインの文章を参照してもらいたい。日経新聞の社説がスプレッドへの理解、公的年金保険への理解を示さないのは、この10年以上、一貫している。

記者にとって<師範>資格は必須だ

年金大好き度テストに話を戻そう。みんなは、何段くらいだろうか?

「公的年金だけでは老後に2000万円不足する」との6月の金融庁報告が炎上した理由は、<四段>になるために知っておかねばならない——「将来の給付水準は絶対的なもの、固定的なものではなく、可変的なもの、経済環境などによっても変わっていくが、自分たちの選択や努力によっても変えていけるものだ」ということがわかることが、金融庁の報告からは感じ取ることができなかったことにあったのだろう(「金融庁の報告書が実はとんでもない軽挙のワケ――年金制度改革の努力を台なしにしかねない」参照)。

年金大好き度テストの<初級>資格にあるように、公的年金は「保険」であって貯蓄性の金融商品とは違う。保険とは、安心を得ることで人々の日々の効用が高まるもので、公的年金保険が当てにならないという政治キャンペーンを信じる人たちは、なんともかわいそうに思えて仕方がない。

自動車保険の保険料を払っているのに、事故に遭っても保険金が出ないという不安を抱えながら車を運転しているような話で、そうした制度に強制加入させている国への不満は大変なものだと思う。僕らのように年金は大丈夫だと若いときから思って日々過ごしている人よりも、相当に暗い気持ちで、毎日、生活を送っていると思うし、将来不安にかられて自暴自棄になる人も出てくるだろう。

そうした人がますます増えていけば社会は一層分断に向かうだろうし、ビルマルクの言う「老後に年金をもらえる人は……御しやすい」というのとは逆の流れになって、政治的な不安定さは増していくだろう。年金を政争の具とするというのは罪深い。

公的年金保険というのは、どういうものなのか? そうした知識を得るのに少しばかり思考に負荷がかかってもよいと思う奇特な人には、日本経済新聞の「やさしい経済学」に書いた「公的年金保険の誤解を解く(1)~(7)」(2016年12月22日~30日)がある。そして、年金大好き度テストで<八段>(スプレッド)、<九段>(Output is central)の審査をクリアしたい人は、『ちょっと気になる社会保障 増補版』を読んでもらいたい。

この程度の知識は、本来、記者たちには必須である。そしてメディアの管理職あたりは、2004年年金改革時の年金局数理課長と僕が、毎回、専門家を呼んで鼎談をしている「居酒屋ねんきん談義」レベルは理解しているはず、と信じたい。しばしば散見されるのは、現場を経験している記者は理解しているのに、その社からヒューリスティック年金論が報道される姿である。

人生100年時代の公的年金保険改革とは何か――2019年年金財政検証のポイントを読み解く」に書いているように、将来の年金受給者の給付水準を上げるために進めなければならない改革がある。ところが、「老後2000万円」騒動をきっかけとして、またもおかしな年金論議がゾンビのように蘇ってきている。

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