人はなぜ年金に関して間違えた信念を持つのか もうすぐ始まる年金報道合戦に要注意!

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いまだにこういう誤報が、堂々と出ていたためか、この記事から5日後の3月13日の「第8回 社会保障審議会年金部会」(2019年3月13日)で、年金局数理課長は次のように発言している。

○数理課長 公的年金が収入、支出ともに、長期的には賃金上昇率に従って変動する仕組みであり、年金財政にとっては、賃金上昇率や運用利回りの名目値でなく、物価上昇率を上回る実質賃金上昇率と、賃金上昇率を上回る実質的な運用利回り(スプレッド)が重要であることに留意が必要であるというものです。
なお、この点につきましては、当方の広報力不足などもあると思うのですけれども、時折名目値により取り上げられる記述が散見されますので、修正されていくようにさらに努力を続けてまいりたいと存じます。

これを受けて、当日、委員として参加していた僕は、次のように発言している。

○権丈委員 数理課長の御説明の中で、私の印象に残ったのが、「当方の広報力不足などもあると思う」という言葉ですけれども、本当にそうなのか。スプレッドで見なければいけないとか、名目値で見てはだめとかいうことは、もう何年間も言い続けているわけです。そして、記事を書く人たちは当然、そうした年金を語る上での文法を勉強した上で書いてもらってしかるべきものだと思うんですよね。
なのに、わざわざスプレッドと実質とかいろいろなものを足し合わせて、名目を計算して出していくような記事がいまだに出てくる。年金というのは明確に誤報というのがありますので、できましたら、間違えているというページをつくってもらいたいと思います。
授業でそれを使うとか、フェイスブックとかツイッターで、このように間違えている記事があるということを紹介できるような、ポータルサイトとは言いませんけれども、そういうページがあれば非常に便利です。
人というのは、何も年金を知らなかったら名目で議論したがるんですね。そして、何も知らなかったら、財政検証を予測として理解したがるのです。そうではない、予測ではないということは繰り返し言い続けていかなければいけないところで、当然記事を書く人たちは、そこら辺はクリアした人たちだと思いたいので、もし万が一、何か誤報が出てくると、それを指摘していただくような姿勢でいてもらいたいと思います。決して「当方の広報力不足」というような弱気の姿勢でやっていただくのではなく・・・

すると、僕の発言を受けて立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんが次のように発言される。

○出口委員 権丈委員が先ほどおっしゃった、間違いページをつくれというお話で、すごくおもしろいと思ったのですけれども、もう一つ大事なことは、つまらないことかもしれませんが、間違った報道が出れば、その都度それはきちんと、これは間違いですということを、面倒くさいかもしれませんが、ちゃんとリリースの形で出していくことがすごく大事なことだと思います。
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