北極へ挑む男、41歳荻田泰永の過酷な冒険の価値

1回に1000万円をかけ、極地への極限の冒険

荻田には、過去に何度か失敗に終わった冒険がある。とくに、2012年と2014年の2度にわたって目指した北極点への挑戦は、いずれも途中で撤退を余儀なくされた。

これまで、無補給単独徒歩で北極点に到達したのは、ノルウェーの冒険家・ボルゲ・オズランド、ただ1人しかいない。北欧の冒険家が偉業を成し遂げた1994年以降、誰1人として成功していないのには、理由がある。

当時と比べると、北極海の氷が20〜30%も減少し、また海流の影響により氷の流動性が高くなっているためだ。北極を知り尽くす荻田でさえも、いまの時代に、無補給単独徒歩で北極点に到達するのは「極めて難しい挑戦だ」と言う。

帰国した際にインタビューに応じた荻田氏(筆者撮影)

それでも、難易度が極めて高いことが冒険の大前提だとし、目標とする北極点へのこだわりを捨てない。

「冒険という字は、危険を冒すと書きますよね。つまり、安全な冒険というのは、言葉として矛盾している訳です。北極も南極も、フィールドは100年前も今もあまり変わっていません。変わったのは、そこに行く人間のほうです。例えば、今の科学技術を駆使すれば、(北極点や南極点に行くだけなら)何の冒険にもなりません。人間が武装して行くわけですから。

道具は進化しているし、衛星でクレバス(氷河の裂け目)を調べておけば、落ちて死ぬ心配もない。そもそも飛行機を使ってしまえば、危険は避けられる。そういった鎧や武器を身にまとうから人間は強くなった気になっているだけ。でも中身の人間は、100年前も今も大して変わっていない。だから、冒険しようと思ったら、人間が鎧や武器を脱ぎ捨てればいいんです」

いまの時代は、旅行会社のツアーを利用して、観光客が北極点や南極点に行くことができる時代だ。そんな時代に、荻田はあえて自らに制約を課し、危険や困難の多い状況で、自ら設定したゴール地点を目指す。ゴールへ向かう過程において、危険性や困難性を自らに課し、それを乗り越えるからこそ、冒険なのだ。

荻田の冒険についた価値

荻田泰永という人物の存在を知ったとき、筆者には1つ、疑問があった。お金についてだ。「冒険家」という肩書は理解できるが、「冒険家」は職業として成立するのだろうか。どのように冒険資金を生み出しているのだろうか。

冒険には多大なお金がかかる(写真:荻田泰永氏提供)

冒険を始めた頃の荻田は、複数のアルバイトを掛け持ちして貯めた約100万円を使い北極を旅していた。半年かけて貯金したお金は、約2カ月の冒険ですべて使い果たす。

帰国すると再びアルバイトに励み、北極に行くための資金を貯める。そんな生活を繰り返してきた。

そんな荻田の冒険に大きな変化が訪れたのは、2012年の単独無補給徒歩での北極点挑戦あたりからだ。北極点へ挑戦するために必要な資金は、少なく見積もっても1000万円を超える。

このとき、大企業のスポンサーどころか、個人の財産すら持たなかった荻田は、個人にカンパを募り、約500人の支援を集めて、ギリギリのところで北極点挑戦を実現させている。

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