北極へ挑む男、41歳荻田泰永の過酷な冒険の価値 1回に1000万円をかけ、極地への極限の冒険
2016年より、荻田にカメラの機材提供という形でサポートをしてきたパナソニックは、2018年の南極点挑戦の際には、それまでの機材サポートに加えて、別の形で荻田をサポートした。その理由について、マーケティング担当の岡康之氏は以下のように話す。
「どうやったら、きちんと荻田さんを応援できるかを考えていました。ちょうどその頃、私が担当したカメラのグローバルマーケティング用の広告企画があって、そこに荻田さんをキャスティングすれば、広告出演料の形できちんとお金を支払うことができると考えました。
もちろん、それが会社にとっても、いい形になるのではないかと考えてのことでした」
この例のように世の中には、荻田の利用価値を考え、正しく活用しようとする人がいる。それが、荻田の冒険にお金が集まる理由なのだ。
自己満足を追い求めてたどり着いた境地
すでにこの地球上に、未開の地・未踏の地はないと言われて久しい。それでも人間は、冒険をやめようとはしない。そこには、「見たい、知りたい」「できるようになりたい」といった人間の持つ根源的な欲求があるからだろう。
「冒険なんて、自己満足以外の何物でもないですよ。すべて自分のためです。でも自己満足がゴールではなく、そこからが新たなスタート。自己満足で得た力を、ほかの誰かのために使えば、新たな価値を生み出せるはずです」
荻田は、2019年4月から5月にかけて、「北極の大自然を歩くという行為の中には、極めて普遍的なものがある。
それを社会に持ち帰って活躍してほしい」という意図のもと、20代の若者12人を連れて北極圏600キロを歩く「北極圏を目指す冒険ウォーク2019」を敢行した。
そして、結果的に、この冒険でも、合計で約1000万円の資金が集まった。
確かに、冒険家にとって、冒険は単なる自己満足なのかもしれない。だが、コロンブスの航海に代表される大航海時代も、欧州諸国が未知の地を目指した際も、その冒険を支援したのは、各国の王室や東インド会社などに象徴される組織であった。歴史を振り返れば、いつの時代も、冒険家の自己満足を活用する組織・社会が存在してきたのだ。
先の「北極圏を目指す冒険ウォーク2019」の報告会で、荻田は、2021年に北極点無補給単独徒歩に再挑戦することを明言した。この冒険を、組織や社会はどのように生かそうとするのだろうか。荻田自身が自己満足で得た力を社会へ生かそうとする次の冒険は、もう始まっている。
(文中敬称略)
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