左傾化する米民主党「トランプ再選阻止」なるか 「テレビ討論会」の発言で見えてきたこと

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こうした左派の勢い(モメンタム)を利用したほうがトランプ氏に勝利しやすいという主張が一定程度信憑性を持つ背景には、「本選では勝てない」と言われていた共和党のトランプ氏が実際に勝ってしまったという事情がある。それにならって、過激でわかりやすい左派の主張を掲げ「左のトランプ」を目指すという戦略だ。だが、今のところ、こうした考え方が民主党に浸透しているというわけではない。無党派層も狙えるモデレートな候補のほうが本選で勝利しやすいという「エレクタビリティ」を重視する考え方が一般的だ。バイデン氏の支持率が比較的高いのも、こうした事情からで、世論調査(ワシントン・ポスト紙などが6月28日〜7月1日に実施)でも「きょう大統領選があったらトランプ氏とバイデン氏とどちらに投票するか」との質問に、有権者の43%がトランプ氏、53%がバイデン氏と回答した。他のどの民主党候補よりバイデン氏のほうが「対トランプ」で有利な数字が出る。過去30年の下院議員選挙を調査したスタンフォード大学のアンドリュー・ホール准教授(政治学)らの研究では、予備選で過激な主張を掲げた候補が選ばれた場合、本戦で勝利する確率は明確に低くなっていたという。一方で、ボイズ州立大学のスティーブン・ユーティック助教授(政治学)は、「右と左のイデオロギーの分断が激化した近年だけでみると、モデレートな候補が勝利する優位性は失われている」との論文を発表している。

結局のところ、候補者の個性や直接対決での討論の印象など、一般論では予測不可能な要素があり、モデレートな候補のエレクタビリティがどこまで有効かは実際には「やってみないとわからない」ということかもしれない。戦う相手はトランプ氏。テレビの娯楽番組で鍛えた直感で、討論相手を「瞬殺」する言葉の達人だ。語彙は多くないが、わかりやすい言葉で政敵の弱点を巧みに攻撃する。初回の討論会での覇気のないバイデン氏を見た民主党支持者は、トランプ氏と戦うバイデン氏の姿を想像できただろうか。

ジェンダー争点は民主党有利か

民主党にとって好材料は、アメリカ社会における女性の勢いだ。トランプ氏は「女性蔑視的」と受け止められており、中間選挙では高学歴の郊外に住む比較的裕福な女性が共和党から離反したとされる。大手アメリカ・メディアが共同で実施した出口調査によると、投票先を「民主」と回答した女性は59%、「共和」の40%を大きく引き離した。共和党はその後の補選などでも女性候補の掘り起こしに苦労しており、危機感を持っている。

「#MeToo」運動は勢いを失っていない。アメリカのサッカー女子ナショナルチームはワールドカップの優勝パレードで「Equal Pay(男女賃金格差の平等)」を訴えた。またアラバマ州で今年5月に人工妊娠中絶をほぼ全面的に禁止する法律が成立したことを受け、女性の権利保護を主張する声が高まっている。こうした声の受け皿となる用意が進んでいるのは民主党で、女性の勢いを取り込める大統領候補を指名できれば、それだけで対トランプ戦略としては有効だと言えよう。

3回目の討論会から、支持率や献金額の条件を引き上げ、候補者を絞った形で行われる。左派が勢いづくなか、最終的に党内に融和ムードを作り「反トランプ」でまとまることができるのか、あるいは左派とモデレートとの亀裂が深まり、トランプ氏を利する形になるのか。すべては今後の討論の行方にかかっている。

古本 陽荘 毎日新聞北米総局長

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ふるもと ようそう / Yousou Furumoto

1969年生まれ。上智大学文学部英文科卒、アメリカ・カンザス大学大学院修士課程(政治学)修了。横浜支局、政治部、ワシントン特派員などを経て、政治部、外信部で副部長(デスク)を務める。2018年から現職。

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