左傾化する米民主党「トランプ再選阻止」なるか 「テレビ討論会」の発言で見えてきたこと

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バイデン氏は討論会の翌日も自らの立場を釈明。だが、風向きが悪いことを察知し、黒人の多いサウスカロライナ州で演説した際に、人種差別者を例に挙げたことを謝罪したが、討論会からすでに9日が経っていた。問題はバイデン氏の政治思想や立場ではなく、速やかに反論する柔軟性や即応性がなかったことだ。黒人初の大統領だったオバマ大統領の副大統領を務めたバイデン氏は、黒人の間で支持率が高い。黒人であるハリス氏がトップに躍り出るためには、バイデン氏から黒人の支持を奪う必要があるのは火を見るより明らかで、こうした展開は予想できたはずだった。

元検事のハリス氏が、被疑者を相手に戦うかのようにバイデン氏に詰め寄った際の迫力は、テレビを通じて視聴者に伝わった。それまで十分な注目を集めていなかったが、一気に有力候補とみられるようになった。支持率でトップの座を維持してきたバイデン氏が失墜したわけではない。世論調査によっては討論会後に10ポイント程度急落したものもあるが、それほど落ちていない調査もある。ただ、バイデン氏が安定した「本命」との見方は薄れ、情勢はかなり流動的になった。

勢いを増す左派

討論会の発言時間は60秒以内に制限された。複雑な政策を説明する時間は与えられていない。主張のインパクトで「勝負」が決まってしまう印象戦にならざるをえない。その結果、わかりやすく過激な発言で注目を集めようという場面が目立ち、左傾化の傾向がより顕著になった。

全体を若干乱暴に整理すると、これまでも大企業批判を繰り広げ、前回もヒラリー・クリントン元国務長官と指名を争ったバーニー・サンダース上院議員(77)と、公立大学無償化などリベラルな政策を次々と発表しているエリザベス・ウォーレン上院議員(70)が所得格差是正を求める左派の代表格。サンダース氏は、自らを「民主的社会主義者」と名乗り、ウォーレン氏はアメリカ社会の「大規模な構造変革」を掲げている。現状の支持率では2人に大差はなく、10%台で推移しているが、サンダース氏が下降気味であるのに対し、ウォーレン氏は討論会前から支持率が徐々に上昇傾向を示している。

討論会では、サンダース氏が提唱している「メディケア・フォー・オール」に賛成するかしないか、踏み絵を迫るような場面があった。高齢者対象のメディケアを拡充し、連邦政府が一元管理する公的医療保険制度の導入案だ。事実上民間保険会社を医療保険の中核部から追い出すことを意味するもので、昨年の中間選挙でも左派が提唱した。サンダース氏やウォーレン氏は、民間保険会社を公的保険から追い出すことにも積極姿勢を示した。

社会の変革を求めるウォーレン氏ら左派は近年、「プログレッシブ」と呼ばれる。元検事で黒人のコーリー・ブッカー上院議員(50)もこうしたグループに位置づけられ、黒人の生活向上のための改革の必要性を訴えた。黒人が過剰に刑務所に収監されているとして、刑事司法制度の改革を公約に掲げている。移民政策で急進的な主張を展開したのはテキサス州サンアントニオ市長も経験したメキシコ系のフリアン・カストロ元住宅都市開発長官(44)だ。包括的な移民政策についていち早く発表。査証なしで外国人がアメリカに入国する行為について、刑事罰の対象から外すよう訴えた。先述のハリス氏もこのグループに入るが、「検事時代の立場は必ずしもプログレッシブではなかった」という指摘も出ている。政策にも曖昧な点が多く、議論の推移を見ながら軸足を中道寄りに移す余地を残している。

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