左傾化する米民主党「トランプ再選阻止」なるか 「テレビ討論会」の発言で見えてきたこと

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中道左派(「モデレート」)の代表格はバイデン氏で、オバマ政権で社会の変革が進んでいたと考えている層に重点的に支持を訴えている。医療保険もオバマ・ケアを維持して改善するよう求めている。エイミー・クロブチャー上院議員(59)は中西部ミネソタ州選出で、共和党の支持者の多い地域でも票を獲得できるモデレートの次世代ホープとみられてきた。ただ、派手さがなく、政策を細かく説明しようとする姿勢が60秒制限のフォーマットにはそぐわず、初回の討論会では見せ場がなかった。

インディアナ州サウスベンド市のピート・ブティジェッジ市長(37)は最年少ということもあり、未来志向の姿勢を強調。ハーバード大学を卒業し、ローズ奨学生として英オックスフォード大でも学んだ秀才で、討論会でも頭脳の明晰さをみせた。アフガニスタンでの従軍経験があり、しかもゲイであることを公言しており、独特な存在感を示している。政策的には、モデレートとプログレッシブの領域が重なっているような印象だ。

外交・安全保障は主要な議題となっていないが、党内で最もリベラルな主張を展開しているのはハワイ選出でイラク戦争に参加したトゥルシー・ギャバード下院議員(38)で、アフガニスタンからのアメリカ軍の即時撤退を求めている。

中間選挙勝利が「足かせ」

昨年11月の中間選挙では民主党が下院を奪還し、ナンシー・ペローシ氏が再び下院議長に就任した。その後、注目されていた2016年大統領選におけるトランプ陣営とロシアとの癒着疑惑(ロシア・ゲート)の報告書が今年4月に公表された。ロシアが大統領選に介入したことを認める一方で、トランプ陣営との癒着(コルージョン)の事実は確認できなかったと結論づけた。ただ、トランプ大統領が捜査当局を妨害しようとした司法妨害については、白黒の判定を避けた。下院を奪還し勢いに乗る若手議員らは、癒着の事実認定がなくても大統領弾劾の手続きに入るべきだと主張。その数は徐々に広がり80人強に達した。大統領の弾劾裁判を開くかどうかの判断は下院が行い、弾劾裁判自体は上院が行う仕組みであり、癒着の事実認定がないまま弾劾の手続きに入れば、共和党が多数派の上院で「無罪」判決が出てトランプ氏が勢いづくのは明らか。弾劾手続きに入ることを求める若手議員に対し、「弾劾ではなく来年の大統領選でトランプ氏を引きずり下ろすべきだ」と説得して回ったのがペローシ氏だった。そもそも、若手はペローシ氏の議長再就任にも反対し、議決の際に反対する構えも見せた。多くの議員は造反しなかったが、ペローシ氏と民主党若手の緊張状態は続いてきた。

左派若手の中で最も目立って活動しているのが、アレキサンドリア・オカシオコルテス氏だ。彼女とイルハン・オマール、ラシーダ・タイーブ、アヤナ・プレスリーの、非白人4人の新人女性議員は「スクワッド(分隊)」と呼ばれ、民主下院指導部に反抗する姿勢を見せている。特にメキシコとの国境近くの移民収容施設のあり方をめぐっては、抜本的な改革が必要だと訴え、共和党と妥協して予算措置を取ったペローシ氏に反旗を翻した。中間選挙で民主党に勢いをもたらした左派の新人らは、もはや制御が難しくなっているのが実態だ。オカシオコルテス氏はもともとサンダース氏に近いが、ウォーレン氏が急速に接近。さらに、ハリス氏も接触していると報じられており、大統領選の候補者選びを左右するほど影響力を持つようになった。スクワッドが支持を表明した候補が、左派の代表候補との「お墨付き」を得る可能性がある。

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