アメリカ保守が「建国の父」を自己批判した理由 リベラリズムが「格差拡大、国民分断」を生む

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一方、リベラリズムの世界では、そうした選択の力が人間の側にあること自体、まったく考えなくなっている。結果、個々人の生活や社会のあり方を、発展していく科学技術に合わせて変えていかねばならなくなった。「それはかえって人間の自由を損なうことにつながっている」と著者は主張する。

著者はまた、「リベラリズムは身分や階層なき社会を作ることをめざしていたはずだが、結局は経済的格差に基づく新しい階層社会を作ってしまった」と批判している。

まず古典的自由主義者たちが市場主義を進め、業績主義的な社会を作った。続いて進歩派リベラルがノブレス・オブリージュ的な社会的義務を否定していき、結果的に「高学歴・高収入のエリートは何にも縛られなくていい」という形になってしまった。

「保守的リベラルと進歩的リベラルは同根で、両者が手に手を取り合ってリベラルな社会を作り上げ、それがポピュリズムの温床になっている」と指摘している。エリートを特権的存在にしてしまう現代のリベラルな社会に対する多数の庶民の反発こそ、昨今のポピュリズム運動だというのである。

一般にリベラリズムとデモクラシーは相補的な関係にあると考えられているが、著者は「リベラリズムの理念の中には民主政を侵食する考えや制度が含まれており、リベラリズムは文化の破壊を通じてデモクラシーの基礎となるシティズンシップ(市民性)を消滅させ、また特定の歴史、特定の場所と人とのつながりをなくしていこうとするので、リベラル化が進めば進むほど人々の共同体に対する愛着は薄れ、政治に無関心になり、投票率も下がっていく」と述べている。

リベラリズムへの批判

著者はまた「アメリカの政治は建国以来、一貫して民主的なインプットを制限しようとしてきた。業績主義的な社会を作り、知的エリートや持てる者が力を得られるような社会を作っていった」として、建国の父たちも批判している。

アメリカ建国当時、ジェームズ・マディソンやアレクサンダー・ハミルトンなどのフェデラリストは、「小さな共同体では派閥政治になってしまう可能性がある」として、なるべく枠組みを大きくし、ローカルではなくフェデラルな制度を作っていこうとした。

自己陶冶によって己の欲望を抑制しうる個人を育成し、彼らの自己統治によって秩序を作り出すのではなく、権力を分立させた多元的な社会を作り、人間同士が互いの欲望を衝突させることによって、勢力が均衡し、結果的に秩序が成立するような体制を考え出した。

「アメリカという国は元々そういう狙いでできた国なのだ」と著者は言う。

そうやって徹底的にリベラリズムを批判したうえで、「アメリカ人はリベラリズムにとらわれて頭でっかちになってしまった。

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