アメリカ保守が「建国の父」を自己批判した理由

リベラリズムが「格差拡大、国民分断」を生む

それを改め、再びローカルな共同体重視の生活実践を信頼し、政治社会の構想を練り直すべきだ」と述べる。ポストリベラルの新しい社会構想は、理論的に作るのではなく、共同体重視の生活実践にもう1度立ち返って、その生活実践のなかから時間をかけて徐々に紡ぎだしていくべきものだというのである。

アメリカの自己反省の書

本書を通読して、格差の拡大、国民の分断、民主主義の機能不全、そして秩序形成における文化や自己陶冶の重要性など、問題意識については共感できる部分が多いと感じた。

共通の社会規範があれば秩序が自生的にできるので、穏健な統治が可能になる。ばらばらの個人、文化的共通性がない人々をまとめようとすると、強力な体制が必要になってくるという指摘も、そのとおりだと感じる。

一般に大陸国家は広大すぎて、共通の文化はなかなか育まれない。中国にしろロシアにしろ、大陸中央に中央集権的な巨大国家がつねに生まれてしまうのは、文化的にばらばらな国民をまとめるためという必然性からだった。

グローバル化が進めば、こうした大陸国家だけではなく、日本やアメリカ、欧州諸国などの他の地域でも、ばらばらになった人々をまとめ、秩序を作り出すために強権的な管理国家を作り出さざるをえなくなるのではないだろうか。

もう1つ、リベラリズムの人間観についての指摘も共感できる。特定の時間、特定の場所から人間を切り離して捉えたことで、文化的差異が入り込む余地がなくなってしまった。それがグローバル化を称賛することにつながったという点である。

一方で著者がリベラリズムの理論全般に疑いを持って、「理論ではなく実践から始めよ」と「大草原の小さな家」のような古き良き共同体重視の生活に戻れというかのごとく主張するのは、やはり極端すぎるだろう。

文化や歴史、風土を担った存在としての人間観を前提に新たに理論を組み立て、リベラリズムを捨てるというよりは改善して、具体的な制度的変革に結びつけていくことは十分、可能なはずだ。

著者はペーパーバック版の序文で、「この本は多くの人からは無視されるだろうと思っていた」と書いている。それが意外に好評を博し、リベラル派からも真面目に取り上げられる結果となった。

アメリカでこうした反リベラリズムの主張が受け入れられたのは、著者も自己分析しているように、グローバリズムやその根底にある行きすぎたリベラリズムに対する人々の疑念が強まっているからであろう。外国人の目から見ると「アメリカの自己反省の書」といった趣も感じさせる。

現在の世界の政治情勢を考えるうえで、大変刺激的な本と言える。

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