国際的スパイ「007」を黒人女性が引き継ぐ理由 MeToo時代「ジェームズ・ボンド」は時代錯誤

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そんな悲しい形でレガシーを終えるより、作り手は、愛されるキャラクターを捨ててでもシリーズを続けるという賭けに出たのだ。

しかも、25作目には、ボンドが新007のノミにちょっかいを出そうとして一蹴され、女性の同僚をどう扱うかを学ぶハメになるという展開も用意されているらしい。そんなふうに、「わかっていますよ。ボンドのこういう態度、ダメですよね。注意してあげましょうね」というジェスチャーも見せるのだ。

また、関係者の間でも、“ボンドガール”という呼び名は禁止され、“ボンドウーマン”になったそうである。カメラの裏側でも、自分たちが作ろうとしている映画の方向性の認識が高められているということだ。

「007」シリーズの明暗

“ダイバーシティー(多様性)”が激しく叫ばれるようになった近年、ハリウッドでは、サンドラ・ブロックらの『オーシャンズ8』や、メリッサ・マッカーシーらの『ゴーストバスターズ』、アン・ハサウェイとレベル・ウィルソン主演の『The Hustle 』(日本未公開:『ペテン師と詐欺師/だまされてリビエラ』のリメイク)など、男性キャストでヒットした過去作品を女性キャストで作り直す例が続いてきた。

しかし、「007」の事情は、それらよりずっと深く、切実だ。歴史が違うし、失敗した場合に失うものも大きい。

実際、ネットには、早くもさまざまな反応が寄せられている。正式に発表されれば、ファンの怒りは爆発するかもしれない。だが、どんなに騒いでも、もはやほかの選択肢はないのだ。今までのボンドは、1960年代の産物。あの頃の男の美学だ。

「007」はここで終わったと決めるのも、その人の自由。しかし、後ろばかり見ないで、自分が好きなキャラクターがこんなに長く活躍してくれたことに感謝しつつ、次のチャプターを拝見してみるのも、悪くないのではないか。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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