日立造船M&Aで、発明家が損害賠償訴訟 買収した技術ベンチャー旧経営陣と泥沼の争い

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NBLは解体

一方、西野氏らが去ったNBLで次の動きが起こるのは11年3月のこと。新株予約権の発行と1カ月後の権利行使により日立造船の保有割合は65.4%に上昇。その後、他の株主4名からの追加取得でついに日立造船が1株差で3分の2以上を確保。会社分割などの特別決議を単独でできるようになった。

8月の臨時株主総会を経て、会社分割で子会社「日立造船コンポジットマテリアル」(以下、CM社)を設立し、NBLの事業と資産をCM社に移管した。その後、NBLに残った8億円弱の負債のうち、金融債務約5億円を日立造船が代位弁済。NBLはCM社株を6000万円で日立造船に売却した。

11年11月、NBLは破産申し立てを行い、昨年6月、手続きが終結。西野氏らはNBL経営陣によるCM社株の譲渡が特別背任に当たるとして刑事告発を行っており、これが昨年末、大阪地検に受理されている。続く今回の民事訴訟は、NBL経営陣によるCM社株譲渡が自分たち少数株主に損害を与えたから賠償せよ、というもの。ファンドが30億円を出そうとした事業が6000万円のはずがない、というわけだ。

以上は西野氏側の主張である。一方の当事者である日立造船はどう考えているのか。

NBLの破産配当率は16%なので、日立造船は破産申し立て直前に行った約5億円の代位弁済のうち16%しか回収できていないことになる。しかも1.5億円を投じたNBL株は、破産で紙くずになった。西野氏在職中に出願した特許は審査請求期限を過ぎており、もはや権利化は不可能だ。今後、西野氏があらためて特許を申請し成立すれば、CM社は事業基盤を失いかねない。日立造船もまったく得をしていない。

当然、日立造船側にも誤算があっただろうし、西野氏の主張への反論もあるはずだ。しかし、取材申し込みに対し、「事実と異なる報道がなされ、非常に遺憾。当社の主張は訴訟の中で行っていく」として、反論を聞くことはできなかった。なぜ億単位の損を出すような取引を行ったのか。株主への説明があってしかるべきだろう。

週刊東洋経済2014年2月1日号<1月27日発売> 核心リポート03)

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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