――鉄道のデザインでも、今はやりの観光列車とはちょっと一線を画していますね。例えば叡山電鉄の「ひえい」。
山田:あれは鉄道車両っていうのとちょっと次元が違って、幽玄な比叡の山の中から出てきた人を運ぶ生き物なんですよ。「お前たちをこれからすごく驚くところに連れていくぞ」みたいな(笑)。
「ひえい」を手がけたのはGKの広島(GKデザイン総研広島)です。でも、モダンな「ゆりかもめ」新型車両(7300系)も広島メンバーです。テイストはそのつど違ってもGKクオリティーというか、そこは共通しているのです。
――グループの各社がそれぞれの分野を担っていて、でも同じ目標を持っているというチームの強みは普段から感じられますか?
北嶋:私はGKグラフィックスにいますが、その前はGKインダストリアルデザインで工業製品全般のデザインをやってきて、だからこそできるグラフィックがあるかなと思っています。
鉄道の場合、利用者から見て全部をつなぐ根底にはグラフィックデザインがあると思うのです。事業者の理念や姿勢を表したロゴマークがあり、その考え方を踏襲した案内サインを見てホームに行って、その考え方でデザインされた車両に乗って移動すると。すべてをトータルでデザインするというときに、GKは同じ思想でみんなでつくっていますから、ぶれがないのですよね。
「レイルウェイデザイン」とは何か
――サインシステムから車両まで、トータルでイメージをつくっていこうという発想は昔からあったのですか?
山田:ヨーロッパの鉄道事業者は、はるか前からやっていますね。GKヨーロッパ(オランダ)の2代目の社長が東京に戻ってきてからそういったトータルデザインに取り組んで、まずアプローチしたのが広島のアストラムライン(広島高速交通)です。このとき、行政が初めて「トータルデザイン策定業務」というのを1990年にGKに発注したのです。
――その頃から交通事業者や行政がトータルでのデザインの重要性というのを認識し始めたということですね!
山田:ただ、さかのぼればGKは大阪万博の時すでに、トータルに乗り物と人の移動する空間を総合的にデザインしないとスムーズな人の移動環境はできあがらないという視点を持っていました。だから「鉄道車両」という見方じゃなくて、「レイルウェイデザインとは何か」っていうことをずっと思考してきているつもりなのです。レイルウェイデザインの中に鉄道車両もあるという。
――車両はあくまで1つの要素ということですね。トータルに統一されていると気持ちよさといいますか、違和感のなさが快適性につながってくるのかなと思います。
山田:道具(モノ)は全部がメッセージなのです。例えばお茶の世界は、どんな器で今日は「ようこそ」と言うのか、ということで成り立っているのです。さまざまな道具立てで人とモノ、人と人のコミュニケーションが成り立つという想像力は捨てたものじゃない。日本人はそういうものの見方ができる。
メイドインジャパンの優れているところは、かゆい所に手が届くとか、技術的にきめ細かいということもありますが、会話する力が道具の中に入っている、何か気持ちよさがある、だから世界中の人が支持してくれるってとらえたほうが正しい気がするのですよね。
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