――例えば鉄道デザインで、利用者に対してメッセージとしてこう使ってほしい、こうあってほしいというのが表れている部分を、代表例があればぜひお聞きしたいです!
山田:例えば「ゆりかもめ」7300系のG-Fitという座席は、足を投げ出しにくくなるように背もたれの角度や曲面とか、細かいところを計算しつくした結果、実際に足を投げ出す人がぐっと減ったわけです。正しく座ってください、という声が聞こえる。
若尾:もう1つの例で言うと「袖仕切り」。電車のロングシートの端の仕切り板です。JR東日本の209系電車から導入されました。
以前はこの部分はパイプで仕切られていて、座っている人は立っている人のお尻が隣にあるのを我慢していたのですね。でもそれが普通だったので、我慢していたなんて皆さん思っていなかった。そこに気づいて自然な解決策を出す、というのがあの袖仕切りなのです。
鉄道デザインは変化する
――袖仕切りの板があると快適ですもんね。端っこに座りたくなります!(笑)。
若尾:あれは、肩とひじの位置に「逃げ」があります。普通、人体はひじのほうが肩より外に出ますから、ひじのほうに向かって斜めに切られていて、そこに軽くひじを乗せられるようになっています。
板は40mmしか厚みがないので、その分外側に逃げのための出っ張りが出ているのですが、その部分が立っている方のお尻を軽く支えるのです。単純に板を立てればいいというのではなくて、自然に人がどう使っていくのがいちばんいいのかを考えて提案しています。
山田:オートバイや自動車は比較的エルゴノミクスというか、人との関係を細かく見て造られるけど、鉄道車両はまず箱があって、そこに人を乗せるといった発想でした。でも最近はシートを1人ひとりの体に合わせたり、仕切りも考えたり、インダストリアルデザインの考え方が十分に入ってくるようになりましたね。
――働き方の変化や少子化などで鉄道利用者が減っていくことを考えると、やはり快適に過ごして気持ちよく会社に行きたいですし、時代を先読みして皆さんが働きかけていくということですね。
若尾:大量に輸送できるというのが通勤車両に求められる価値だったわけですが、今は皆さんの思いが違う方向にシフトしてきています。
利用者に対するメッセージの例にもなりますが、西武鉄道40000系のデザインの提案をさせていただきました。その車内に「パートナーゾーン」というのがあります。
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