前座の落語家は、自分の下に新弟子が入らないと身分が上がらない。そういうこともあって前座たちが喬太郎に落語家になるように勧める。同時に柳家さん喬には「彼が弟子になりたがっている」と吹き込む。
「うちの師匠の耳に入ってから入門するまで、たぶん2、3年あったんじゃないですかね。師匠の家に行ったら“やっぱり来たんだね”って感じでしたね」
1989年10月。さん喬41歳、喬太郎25歳。
一番弟子。落語の師弟関係にもいろいろあるが、この師弟は年齢が近いこともあってか、師匠が偉ぶらず、弟子を尊重するフラットな関係だった。
「うちの師匠は降りてきてくれたんだと思うんですけど、自由にさせてくれるんですよね。それは大師匠(師匠の師匠)である先代小さん(五代目柳家小さん)師匠がやっぱり自由にお弟子さんたちを育てたということもあったと思います。
僕が入門したとき、大師匠はご健在で、正月なんか小さん師匠の剣道の道場にみんな集まりましたが、僕らは座るところなんかなかった。
直弟子の先輩方とか孫弟子仲間たちと、わいわい言いながらお正月をしました。さん喬一門でもあるんだけど、小さん一門でもある。それが、ものすごく僕の噺家としての人格形成に、影響していますね」
五代目柳家小さんは、孫弟子柳家喬太郎の真打ち披露(2000年)でも口上を述べている。いい時代、いいタイミングで入門したと言っていいだろう。
客席を“炎上”させる新作派の旗手
柳家喬太郎は、新作落語の旗手の一人である。それもただならぬ旗を振り回している。
中学生と校長先生のキャラクターが交錯する「夜の保健室」、洋食屋上がりの若者が寿司職人に挑戦する「寿司屋水滸伝」、新宿歌舞伎町が舞台の面妖な「諜報員メアリー」、訳あり大学生アベックの別れ話「すみれ荘二〇一号」、ウルトラマンネタも「ウルトラのつる」「ウルトラ仲蔵」などいろいろある。
哀愁が漂うかと思えば、荒唐無稽な世界に引きずり込まれたりもする。まさに柳家喬太郎ワールドだ。東京のみならず、全国に新作派喬太郎のファンがいる。
新作を演じている喬太郎は、ときとして弾ける。はぜる。客席の盛り上がりに油を注ぐようにギャグを投じて客席を炎上させる。
ときには、自作の「東京ホテトル音頭」を朗々と歌い上げることもある。18番まで歌詞があるこの曲は、都内各地の盛り場のホテトル風情を紹介した“大作”である。新作落語を演じるときは、この曲を出囃子にしてしまうことさえある。お上品な「東洋経済オンライン」なので歌詞の紹介は割愛するが、手拍子で応える客席も、歌う喬太郎も、至福の境地である。
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