キレる上司が「害悪」でしかない科学的根拠 「職場ストレス」のコストは年間5000億ドル
これは、1年のうち7週間をそれに費やしている計算になる。つまりその時間は、今後の戦略を立てる、顧客との関係を深める、社員を指導するといった中核の活動に使えていないということだ。事態の打開のため、コンサルタントや弁護士の力を借りたりすれば、コストは莫大なものになるおそれがあるのだ。
さらに、一度侮辱的な発言をされると、された側の人たちの頭にはすぐに否定的な思考が染み付くという問題もある。否定的な思考は頭に居座り、否定的な行動へと変換される。
私の実施した調査でも、一度誰かに無礼な扱いを受けると、他人に協力しようとする人は3分の1に減り、他人と何かを分かち合おうとする人は半数以下に減ることがわかっている。
これは当然のことだろう。集団の中にひどい態度、無礼な態度を取る人間が1人でもいると、それによって生じた悪感情は集団内に広がり、態度の悪い人は増える。中には攻撃的、好戦的ともいえる態度を取る人も現れる。
私がコンサルティングをした企業でも、実際にそういう現象が起きているのを見たことがある。例えば、ある大規模なメーカーでは、外部からコンサルティング・チームを招き、助言を求めた。
そのコンサルティング・チームは助言をしたのだが、そこで使われた言葉が侮辱的、屈辱的なものだったため、幹部の1人が激怒した。両者の間で言葉の応酬は次第に激しさを増し、ついには個人攻撃の様相を呈し始めた。
そして、幹部が「表へ出ろ!」と叫ぶ事態にまで発展してしまった。スーツを来た大勢のビジネスパーソンが会議室から駐車場まで歩いていったが、まだ冷静さを保っていた人がいて懸命に止めたため、殴り合いの喧嘩にはならずに済んだ。ただ、そんな出来事があったあとで仕事に集中できるはずはない。
無礼な態度を軽く見てはいけない
理不尽な扱いを受けた人はどうしても、その後、集中力、注意力を削がれてしまう。そうなると、自分の持てる力を最大限に発揮するのは難しい。
私はいくつもの調査でそのことを確かめてきた。しかも、直接、理不尽な扱いを受けた本人だけではなく、それを見ていた周囲の人も悪影響を受けるのだ。無礼な態度は、あらゆる人たちから大事なものを奪い取ってしまう。
誰かに無礼な態度を取られると、人の心はジェットコースターに乗って恐怖を味わったときのようなストレスにさらされる。ストレスは認知能力の低下を招く。そして時に身体の健康までも損なうことがあり、また持っているはずの力を発揮できなくなる。
無礼な態度を軽く見てはいけない。ほんのちょっとした言葉、態度が重大な影響を及ぼすことがある。しかも、特定の個人だけでなく、組織全体に影響が及ぶことも多い。この問題についてそろそろ真剣に考えるべきときだと私は考えている。
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