空港暮らしのアンゴラ人が韓国に入れない事情 「難民認定」の難しさと韓国政府の立場

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その後、政府からは何度も祖国への帰国を促されたが、ルレンドさんが「国に帰ったら殺される」と拒むと、パスポートを取り上げられ、空港での暮らしが始まった。

年が明け、空港内の亡命希望者センターに収容され、通訳や書類記入の時間を含む約2時間の面接が行われたものの、記入途中の書類を取りあげられるなどしたという。「こんな不十分な審査で却下する政府の決断はばかばかしい」と、難民支援グループの弁護士は、杜撰な面接だとして非難する。

「難民」と認定されるには

ルレンドさんは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)への連絡を要望するも、聞き入れてもらえなかったそうだ。そこでスイスのUNHCR本部の電話番号を見つけて自ら連絡したところ、韓国のUNHCRに連絡が行き、弁護士を手配してもらうことになったという。

だが「偽装難民」でないことを証明するには、難民申請希望者は迫害を立証しなければならない。ルレンド一家の場合、アンゴラでルレンドさんが接触事故の際にかけられた殺人容疑の不当性、その際の警察官による数々の暴行、そしてルレンドさんを探しに自宅へ来た警察官による夫人へのレイプなどの根拠や証拠を示さなければならず、非常に難しい。一方、韓国政府にしても、迫害の確たる証拠がない場合、何を根拠に入国を許可すべきか、間違った前例を作らないためにも、その判断は容易ではないはずだ。

韓国は、日本同様、「難民の地位に関する条約」(通称:難民条約)に加盟している。そもそも加盟国はどんな審査基準で難民を認定しているのだろうか。

難民条約によると、難民とは「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」と定義されている。

だが、「難民認定をはじめとする条文の解釈や運用は、実質的に条約・議定書の各締約国次第となる部分が大きく、国によって難民認定、受け入れに差がついてしまうのではないか」と、国際人権の分野での経験のあるアメリカ・ニューヨーク州弁護士の仲居宏太郎氏は指摘する。「条約や議定書をより実効的なものにするためには、解釈に差が出すぎないように、より明確で統一された基準を作っていく必要もあるのではないかと思う。条約が本来意図しているだろう義務が履行されず、深刻な苦境に陥っている人々に救いの手を差し伸べることができないのは残念でならない」。

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