日本経済の生産性をめぐる「誤解」を徹底解説 「賃金抑制」も「最低賃金引き上げ」も的外れだ

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――商品やサービスの価格を引き上げられないことが生産性の低さの原因だ、という人もいます。

これも誤解で、同じ商品・サービスの価格が上がるだけでは、生産性は上昇しない。名目と実質を取り違えた議論で、生産性の上昇は実質の概念。ビジネスではふだん名目で物事を考え、物価の上昇分を補正した利益という話はしない。日本ではインフレが起きていないこともあって、そのことが理解されにくい。一方、製品やサービスの質が向上すると価格が変わらなくても生産性の上昇になるが、これはさらに理解されにくい。

――「日本のサービスは質がいいのに価格が低い」という話もよく聞きます。

小売物価の統計を見ると、百貨店やスーパー、コンビニなど、業態によってまったく同じ商品なのに販売価格やマージンにかなり差があり、小売りサービスの質に対して消費者が一定の価格を支払っていることが確認できる。ホテル・旅館や飲食店、旅客運輸などのサービスにも価格に大きな幅がある。

森川正之(もりかわ・まさゆき)/経済産業研究所副所長。東京大学教養学部卒、経済学博士(京都大学)。1982年通商産業省入省、経済産業省大臣官房審議官などを経て現職。著書に『生産性 誤解と真実』『サービス立国論』など(撮影:今井康一)

私が行った調査でも、消費者は付加的サービスの有無によって価格差があるのは妥当だと考えている。差別化された質のいいサービスで消費者に受け入れられるものであれば、相対的に高い価格設定は可能だ。

――一般的には「労働生産性」が語られることが多いですが、「資本生産性」も問題になります。また「全要素生産性」(TFP)が重要だ、という話もあります。

資本生産性は機械設備、店舗など資本ストック1単位当たりの付加価値で、土地も資本の1つなので、農業でよく使われる単収に相当する。産業別にみると、電力や鉄道といった装置型産業は労働生産性が高いが、資本生産性は低くなる。

企業は時間当たり平均賃金、ROA向上を目指せ

一般に、ある企業が多額の設備投資を行って、従業員1人当たりの設備を増やすと労働生産性は高まるものの、資本生産性は下がってしまう。両方を使って生産している以上、片方だけを見ると一面的になる。

これを考慮したのがTFPだ。付加価値の増加率から労働と資本の増加による寄与度を差し引けばTFPの伸びを測定できる。ただ、TFPには絶対的な単位がないため、わかりにくい。以前よりも何%高い/低い、他社よりも何%高い/低いとしか説明できないからだ。

TFPは単純には労働生産性と資本生産性の加重平均と考えればよい。したがって、単位のある数字で見たいなら、労働生産性と資本生産性をそれぞれ反映していると考えられる、従業員の「時間当たり平均賃金」と「総資産利益率」(ROA)を引き上げれば、結果的にTFPは高くなる。企業経営者は、この2つの向上を目指せばよい。

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