日本経済の生産性をめぐる「誤解」を徹底解説 「賃金抑制」も「最低賃金引き上げ」も的外れだ
企業収益が増えても生産性は上がらない
――生産性という言葉がよく聞かれるようになりました。その分、言葉の誤用も多く、議論に混乱も見られます。昨年11月に刊行された著書『生産性』は時宜にかなったものでした。
内閣府や経済産業省などの政策担当者や企業経営に携わる方から、生産性について尋ねられることが多くなっていた。そうした中、生産性についての誤解が驚くほど多いことに気づいた。内外の研究成果や最新のデータを踏まえて、生産性について俯瞰するものを書こうと思った。
――代表的な誤解にはどんなものがあるのですか。
まず、生産性の概念のうち、企業の方々がよく使うのが「労働生産性」だ。これは労働者1人1時間当たりにどれだけの付加価値が生み出されたかという数字。分子にあたる付加価値は、日本経済全体の場合にはGDP(国内総生産)、企業の場合には売上高から原材料や光熱費を差し引いた数字、ざっくりいえば粗利になる。
ところが、企業では多くの人が「稼ぐ力」が生産性で、「儲かること」「企業収益が増えること」が生産性上昇だと思っている。しかし、企業収益は日本全体のGDPの2割ぐらいで、実際は雇用者報酬のほうがずっと多い。賃金を抑制して利益率を高めても、生産性が上がることにはならない。
それから、労働者1人当たりで見て、生産性が高い/低いという議論もよく聞くが、これはミスリードになる。毎月勤労統計のデータの間違いが国会で問題になったとき、「賃金が上がっていない」という場合の「賃金」は現金給与総額から物価の影響を控除したもので議論された。しかし、実質賃金が上がっているか、下がっているかは時間当たりで見るべき。同様に、生産性も時間当たりで測るべきものだ。8時間働いて2万円稼ぐ人は、12時間働いて2万円稼ぐ人よりも賃金や生産性が高い。
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