日本経済の生産性をめぐる「誤解」を徹底解説 「賃金抑制」も「最低賃金引き上げ」も的外れだ

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――AI(人工知能)と生産性の関係についてはいかがでしょうか。

AIは発展途上でデータも整備されておらず、しっかりした実証研究はまだほとんどない。ITやロボット導入による生産性効果は十分に分析・研究されていて、AIがその延長だと考えれば、生産性はかなり上がる可能性が高い。ただ、AIと補完的な人の雇用機会や賃金は増えるが、ルーチンワークの人の雇用機会や賃金は減るので、経済格差が拡大する可能性が高いだろう。

――では、生産性を引き上げるために有効な政策は何なのでしょう。

イノベーションと人の質の向上は、TFPを高める効果、潜在成長率の上昇に対する寄与度が大きい。それらと並んで効果が大きいのが、資源の再配分によって効率の悪い企業が撤退し、生産性の高い企業のシェアが拡大すること。研究開発と教育投資が生産性向上のために取るべき政策の中心で、加えて資源再配分を促すような規制緩和が有効になる。

研究開発投資や教育投資が生産性向上につながる

企業の自由な取り組みを後押しする研究開発税制は非常に有効で、経済学的にも正当化される政策だと考えられている。ただ、税制なので、当然のことながら赤字企業は減税の恩典を受けられない。資金力のない企業への研究開発補助金も、民間の研究開発投資を刺激する効果がある。研究開発投資は民間だけに任せておくと過少投資になりがちでもある。

――教育投資はどのような政策が望ましいでしょうか。学校の先生が忙しいので、1学級の規模を小さくするべきだという声もあります。

実証的には先生の質を上げることが望ましいとされている。一方、クラスを小規模にすることは、実は費用対効果が悪いという研究結果が多いようだ。教師を増やすには多額の予算がかかるうえ、教育に向いていない先生が増えてしまうという逆効果があることも指摘されている。

昔、優秀な女性の活躍の場が少なかった時代には、学校教員は女性にとって魅力的な仕事で、女性の先生の質が高かった。民間企業など女性の活躍の場が広がったこと自体はよいのだが、小中学校の先生の質は落ちてしまう。したがって、教員の待遇改善は、質の良い先生を集めるために必要な政策だ。

ただし、一律に教員給与を上げるのは最善ではない。先生に向いていない人は他の仕事に代わってもらうことと、成果の高い教員への報酬引き上げなどをセットで行わないと効果は出ない。

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