アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている

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カールソンの「独言」から始まり『ファースト・シングス』の声明に至る一連の動きが示しているのは、保守派陣営内で冷戦期以来の保守思想から脱却して、新たな思想形成の動きが始まっており、その核に「ナショナリズム」が据えられていることだ。

アメリカでは、これまでナショナリズムという言葉は、ナチズムやファシズムと結びつけられて、否定的なニュアンスを込めて使われることが多かった。愛国主義的な意味を表現する場合は「パトリオティズム」が使われてきた。それは左右を問わなかった。そのナショナリズムが今、保守派内で前面に出されて使われるようになったことだけでも、思想風土の変化をうかがわせる。

7月には保守派論壇が大集合

デムートは、論文の中で「保守的ナショナリズム」という言葉を使い、これからの方向性を示そうとしている。デムートの考え方に影響を与えたのは、イスラエルのシオニスト思想家ヨラム・ハゾニーの著書『ナショナリズムの徳』(2018年)である。

デムートの論文は書評の形式を取っており、同書も含め主にこの2~3年に著された9冊を取り上げている。タッカー・カールソンの著作も挙げている。保守派の思想再編を考えるうえで極めて重要な著作が含まれる。

興味深いのは、民主党に近い政策も取り込んで保守派を改革しようとし、2016年選挙でマルコ・ルビオ上院議員を推した「リフォーモコン(改革派保守)」の間でも新しいナショナリズムを標榜する動きが出ていることだ(東洋経済プラス拙稿『進化する「リフォーモコン」』参照」)。

これまで挙げてきた、カールソン、デムート、ハゾニーや『ファースト・シングス』に声明を出した知識人グループや、トランプ時代の新たな思想を模索するCRBや『アメリカン・アフェアーズ』など論壇誌の主催者らは、この7月中旬にワシントンに大集合し、「ナショナル・コンサーバティズム(国民保守主義)」の形成について話し合う。

その国民保守主義のベースとなるのは、『ナショナリズムの徳』をはじめデムートが挙げた最近の重要著作のいくつかだ。これらの著作の中心的主張は、『ファースト・シングス』声明にあった「個の自律」批判である。これは、個人の自由と平等を中心に据えたアメリカ建国理念の批判にまで至りかねない。次回はそれらの内容から、アメリカ保守思想再編の中身をさらに探っていく。

会田 弘継 関西大学客員教授、ジャーナリスト

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あいだ・ひろつぐ / Hirotsugu Aida

1951年生まれ。東京外語大英米語科卒。共同通信ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを務め、現在は共同通信客員論税委員、関西大学客員教授。近著に『破綻するアメリカ』(岩波現代全書)、『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社)、「増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』(中公文庫)など。訳書にフランシス・フクヤマ著『政治の衰退』(講談社)など。

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