アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている

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この声明が大きな意味を持つのは、既成のアメリカ保守主義とリベラリズム(進歩主義)は同じ穴のムジナだと批判し、この双方を否定したうえでトランプ以降の新たな保守主義の確立を訴えている点である。一種のガラガラポンのようなことを始めようとしている。そのキーワードが新たなナショナリズムだ。

一方、保守系論壇誌『クレアモント・レビュー・オブ・ブックス(CRB)』に「トランピズムとナショナリズムと保守主義」と題する論文が2月下旬に掲載され、これも保守思想界にちょっとしたセンセーションを起こした。連載第1回で紹介したように、CRBは躍進しているトランプ派メディアの1つだ。思想史的には西海岸の(レオ・)シュトラウス派と呼ばれる潮流の中で生まれた論壇誌である。

「国民精神の復活」が連鎖的に起きている

論文の著者は、クリストファー・デムート。保守派有力シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)理事長を1980年代から20年以上務め、財政危機にあった同研究所を立て直した。AEIは長くネオコンの牙城と見なされていた。デムートはその理事長を退いたあと、保守系ハドソン研究所の特別研究員となっている。保守シンクタンク界の大立て者といっていい。

そのデムートが、トランプ派CRBへの寄稿論文で「トランピズムのエッセンスはナショナリズム」であると要約し、いま米欧先進各国では「国民精神の復活」が、ちょうど「諸国民の春」と呼ばれた1848年革命の時と同じように連鎖的に起きていると分析した。1848年革命では、欧州各国の市民は蜂起して王侯貴族らが国境を越えてつくるエリート体制を打ち倒そうとした。

デムートはイギリスのジャーナリスト、デビッド・グッドハートの著書を引用し、「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だと論じた。「どこでもたち」とはグローバルに活動するエリートたち。彼らは世界中の同類がいるところなら、どこに住もうと構わない。エリートのネットワークの中で豊かに生きている。

他方で「どこかたち」は、地域に根付いて暮らす労働者や農民だ。家族、地域社会やさまざまな共同体、そして信仰が大切だ。トランプは、「どこかたち」の反乱の力を借りて登場した。「どこか」が反乱を起こしているのは、「代表政治」が衰退して彼らの声が届かなくなったからだ……とデムート論文は展開し、連邦議会の改革などを提案する。

デムートは、このままトランプが目指す方向でアメリカ政治が動いていけば、「保守主義運動と共和党はこれまでとは違ったものになる。保守の意味がまったく新しいものなる」とし、そこに向かって実際に思想的な再編が進んでおり、再編は「ナショナリズムの復活に形と意味を与えることを目的にすべきだ」と訴えていることだ。

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