この「司法長官レター」のキモはこの文章だ。「連邦刑事訴追の原則を適用して、刑事訴追すべきかどうかを、ロッド・ローゼンスタイン副長官と協議して、次のような結論に至った。すなわち、特別検察官の捜査中に集められた証拠は、大統領が司法妨害の罪を犯したと確定するには、十分ではない」。
この内容について、ミュラー氏は「本意でない要約をされた」として、不満を示す手紙をバー司法長官宛てに出した。これを受けて、民主党議会はバー司法長官に対して、集中的に個人攻撃の批判を浴びせた。
ミュラー氏がバー司法長官に抗議の手紙を出した行動については、ビル・クリントン元大統領を弾劾ぎりぎりまで追い詰めたことで知られるケン・スター元独立検察官(注・当時は特別検察官ではなく独立検察官)が厳しく批判している。つまり、バー司法長官は、司法省のレギュレーションに義務として従っただけであり、その司法長官に抗議するミュラー氏の行為は、特別検察官として許されない倫理的な罪(シン)になるというのだ。
本稿でおなじみの、憲法と刑法にまたがる領域で全米の最高権威であるアラン・ダーショウィッツ、ハーバード大学ロースクール名誉教授は、ミュラー氏の記者会見の内容について、「公平であるべき法の秤(はかり)の判断で、ミュラー氏は自分の親指どころか肘を、民主党議会の弾劾支持派に有利に重しをかけた」と断じている。
さらに、ダーショウィッツ名誉教授は、「ミュラー氏が自らの辞任記者会見で、議会に弾劾を促す発言をしたのは、三権分立に違反する行為であり、特別検察官としての権限を逸脱している」と、厳しく批判している。
強すぎるミュラー氏の反トランプ・バイアス
最新のCNNを含む複数の世論調査では、いずれも50数%以上のアメリカ国民が、トランプ大統領を弾劾することに反対している。
現在のアメリカにおける弾劾論について、民主党左派の声だけではメディアも本格的に取り上げることはなかったが、今回の記者会見における9分間の「ミュラー声明」は、民主党下院による弾劾手続きに向けて有力な声援を送ったと、全米のニュースTVによって報道され、ほかのメディアも注目し始めた。
ニューヨーク・タイムズ紙では、ミュラー氏のような刑事法務官僚としてエリート街道を突っ走ってきた人物が、ここへきて何を狙っているのか、よくわからないと首をかしげる論調も散見される。
ミュラー氏は、なぜ、本音を出さないのか。仮に反トランプ色を鮮明にしてしまうと、ダーショウィッツ名誉教授が過去2年にわたって言い続けてきたように、ミュラー氏の反トランプ・バイアスが強すぎるというマイナス面の議論が再浮上し、「ミュラー最終報告書」そのものを、下院民主党が弾劾論議に活用できなくなるからだろう。
すでに、フォックス・ニュースTVや政治メディアの『ヒル』誌が、「ミュラー最終報告書」を具体的に批判し始めている。ダーショウィッツ名誉教授も、「最終報告書」の執筆者を個々に具体的に調査すべきだと、テレビで発言している。
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