学生トップクラスの実力を誇る設楽啓太・悠太の最速ツインズが最終学年を迎えた今季(2013年度)も、チームはトラックで過去最速タイムをマークしながら、出雲と全日本で敗退。学生三大駅伝は5大会連続で「2位」が続いた。6年前までなら、「準優勝」という結果で大喜びしていたかもしれないが、一度“勝利の味”を知ったチームが、「2位」で満足できるわけがなかった。勝てそうで勝てない。そんな状況を東洋大はいかにして、乗り越えてきたのだろうか。
大胆な“リノベーション”
東洋大は、年間の最大目標となる箱根駅伝の1年前から、「勝つため」の準備に入った。それはちょっと驚くべき作戦だった。酒井俊幸監督は、チームで最も走力のある設楽啓太を5区に配置するプランを打ち出したからだ。
設楽啓太は1年時から“花の2区”を任され、3年連続で好走している選手。今回の箱根駅伝で、もし2区を走ることになれば、留学生を含めて、過去に4人しか到達していない1時間6分台の期待も高かった。しかし、5区で勝負できる選手がいなかったために、エースを5区にコンバートした。ただし過去の箱根では、エース級の選手が山登りの5区を快走した例はそれほどなく、駒澤大・大八木弘明監督も「設楽啓太の5区はちょっと考えていなかった」と話すほど大胆な“リノベーション”だった。
5区は「山登り」への“適性”が左右する部分が大きく、全日本大学駅伝の最長8区で区間賞を獲得したダニエル・ムイバ・キトニー(日大)が今回5区に出たものの、区間10位に終わっている。しかも、設楽啓太は上りを得意にしているわけではない。その証拠に、設楽啓太の設定タイムは「1時間18分30秒」と柏原が樹立した区間記録よりも1分51秒も遅かった。
過去8大会の5区区間賞と比較すると物足りないパフォーマンスで、設楽啓太ひとりで考えれば、5区ではなく、2区に起用したほうがタイム的には稼げたはずだ。しかし、設楽啓太は区間をトップで走った。10区間のトータルで考えるのが箱根駅伝。エースでリスクを回避した酒井監督の緻密な戦術がハマったことになる。
エースの5区を実現できたのは、2年生の服部勇馬が成長したことと、最速ツインズのもうひとり、設楽悠太という切り札もあったからだ。酒井監督は服部勇馬を「将来のエース候補」として、1年時より駅伝では主要区間を任せてきた。今回の箱根では服部を2区に、設楽悠太を3区に配置。「2区服部の起用は1年前から考えていました。そのために前回は逆コースとなる9区を走らせたのです。来季はチームの核になる選手ですし、2区を走れば自信になる」(酒井監督)と来季のことも考慮した攻めのオーダーだった。
服部勇馬は1年前の箱根が終わった日の報告会で、「来年は自分が2区を走ります」と宣言。そのとき、設楽啓太に「それなら俺が5区をやるから、2区をやれよ」と声をかけられたという。「2区服部勇馬、5区設楽啓太」というオーダーは1年前から準備してきた作戦だった。「5区がしっかりしないと箱根を制すのは難しいことを、前回、思い知らされました。監督からは『来年の5区はオマエな』と言われたので、覚悟を決めて、この1年取り組んできました」と設楽啓太はいう。壁を乗り越えるには、万全の準備が欠かせない。
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