また酒井監督は、設楽啓太と悠太という2枚のカードを手元に置いて、ギリギリまでライバル校の動向と当日の天候を見ていた。当日変更の直前(1月2日の早朝)、元日には強風が吹き荒れた芦ノ湖に風はない。酒井監督はエースを“山”に投入する決断をした。
体重の軽い設楽啓太では、向かい風となる山登りでは力を発揮できない。風が強ければ、作戦を変更して、エースを復路に回す予定だったという。当日の気象条件まで考えて、東洋大は「最善の策」をとった。それはどの大学よりも、極めて慎重で、大胆な戦術だった。
ミーティングで“負の空気”を一掃
11月の全日本大学駅伝では中盤までトップを快走しながら、4区で首位から陥落。東洋大は駒澤大に3分以上の大差をつけられ敗退した。この時点で学生駅伝は5大会連続の2位。「全日本が終わった直後が、雰囲気としてはいちばん悪かったですね」とキャプテンの設楽啓太は振り返る。しかし、月に1回だったミーティングを増やしたことで、チームは変わり始めた。
特に12月には、多くの時間をミーティングに費やしてきた。2日連続でのミーティングや、朝練習をしないでミーティングに充てた日もあったという。「負けた原因や、自分たちに何が足りないかを話してきました。今、振り返るとチームワークが欠けていましたね。それを高めていけば勝てると思いました」と設楽啓太。
ミーティングを重ねることで、これまでは口に出すことができなかった本音の部分をさらけ出すことができたという。本音をぶつけ合ったチームの絆は強固となり、箱根駅伝の本番では、「メンバーから外れた4年生もしっかりサポートしてくれて、走りやすい環境を作ってくれました」(設楽悠太)と、チーム全体で「優勝」という目標に向かって突き進むことができたのだ。
その1秒をけずりだせ!
“箱根王者”の称号を取り戻した東洋大の総合記録は歴代2位の10時間52分51秒。復路は5時間25分38秒の大会新で突っ走り、2位駒大とは4分34秒の大差をつけた。往路と復路を制す完全優勝。圧倒的なタイムと強さで、5大会連続「2位」の呪縛を解き放した。復路は「勝ちたい」という思いが強く、タイムはあまり意識していなかったというが、「その1秒をけずりだせ」というスローガンの下“1秒”を大切した結果がすばらしいタイムをもたらした。
駅伝にはわずか“数秒”が大きなタイム差につながることがある。選手たちが「1秒」の大切さと、自分たちの「役割」を熟知していたからこそ、東洋大の圧勝劇が誕生したと思う。
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