フジテレビ、社長交代で「真の復活」果たせるか 制作大改革で劇的回復、次なるカギは視聴率

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ここ数年、テレビ業界で重視されるようになったのが、個人視聴率だ。一般に公表されているのは世帯視聴率で、テレビを所有する世帯のうち、番組をリアルタイムで視聴した割合を示すもの。一方の個人視聴率は一般には非公表で、世帯の中で誰がどのくらいテレビを視聴したかを示す数値だ。

この中でも広告主が注目するのが、10代前半~50代後半の男女の個人視聴率だ。ある民放キー局関係者は、「これらの世代の個人視聴率に限ると、日テレ、フジ、TBSの順になっている」と明かす。消費意欲の強い世代に効率的に広告を打ちたい広告主のニーズに合致していれば、世帯視聴率と広告収入は比例しない。視聴層が比較的若いフジテレビには追い風だといえる。

それでも安心はできない。そもそもテレビ広告市場は年々右肩下がりだ。電通の統計「日本の広告費」によれば、2018年の地上波テレビの広告費は1兆7848億円と前年比1.8%減となった。

これを猛追するのがインターネット広告で、同16.5%増の1兆7589億円だった。今年にはネットが地上波テレビを逆転するとみられている。限られたパイの奪い合いにも限界があるのだ。「冬季五輪やサッカーW杯があった中でのこの状況は、テレビ広告のネットシフトを認めざるをえない」(電通関係者)。

ネット配信にどう対応するのか

ネットの波はコンテンツにも及ぶ。フジメディアHDの金光新社長は会見で、「デジタルデバイスの多様化に伴う行動の変化にいかに対応すべきかを考えなければならない」と語ったうえで、「(NHKが計画するネット)同時配信を含めて、無料であれ有料であれ、どう取り組むかは重要な経営課題と認識している。この1年間でプロジェクトを組んで検討してきた。まだ発表の段階ではないが、何らかの形で組織に反映して具体的に進めていく」と説明した。

6月末の株主総会を経て就任する、フジ・メディア・ホールディングスの金光修新社長(右)と、フジテレビの遠藤龍之介新社長(左)(撮影:大澤 誠)

フジテレビはオンデマンドの有料配信サービス「FOD」を展開する。黒字を維持しているものの、登録者数は約80万人にとどまる。テレビ朝日とサイバーエージェントの合弁による無料リニア配信の「AbemaTV」は、この6月に週間アクティブユーザー数で1000万人を、日テレ傘下の有料配信サービス「Hulu(フールー)」が今年3月末に会員数で200万人を突破したことを考えれば、規模は小さい。また、TBSとテレビ東京、WOWOWも昨年、有料配信サービス「Paravi(パラビ)」を開始するなど、視聴時間の奪い合いは熾烈だ。

フジテレビがゴールデン帯、プライム帯(19~23時)、全日帯(6~24時)のすべてで民放トップとなる「視聴率三冠王」を獲得したのは、2010年が最後。メディアを取り巻く環境が激変する中、かつての勢いを取り戻せるか。新体制の肩にのしかかった荷は重い。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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