「契約金泥棒」の斉藤和巳がエースになれた理由 無名のドラ1男が沢村賞投手になった背景

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しかし、1998年のシーズンオフ、同時期に肩の手術を行った小久保裕紀が斉藤にプロとしての生き方を示してくれたことで、斉藤は覚醒するきっかけをつかんだ。

リハビリ中のトレーニングほど、地味なものはない。ゲーム的な要素はなく、ひたすら根気が必要とされる。それに、トレーニングの効果は目に見えない。

斉藤が当時を振り返る。

「どうしても気分が乗らないときがあるじゃないですか。そんなときに、横にいる小久保さんを見ると、前の日と変わらず黙々とトレーニングをしている。小久保さんほどの選手がこれだけやっているのに、僕が手を抜くわけにはいかない。だから、『オレも』と思うんです。トレーニングに取り組む姿勢を見て『やらなあかん』と」

肩の手術をした選手のリハビリは、故障個所を元どおりに回復させることだけにとどまらない。ほかの部位もイチから鍛えることになる。

「小久保さんを見習って真剣にトレーニングをしていたら、ある日、自分の体が強くなっていることに気がつきました。『おお! オレも強くなったな』と。ウエイトトレーニングも同様ですね。小さな積み重ねによって強くなれることを教えてもらいました」

それまでは、できたのにやらなかった

その後、斉藤は、小久保が行うシーズン前の自主トレーニングに帯同を許されることになる。ホークスの内野手だった林孝哉は言う。

「若い頃の和巳は、やんちゃと言ったらやんちゃですけど、度が越えていました。自分勝手でまわりを見ることができないというのが僕の印象でした。プロの世界では、『自分が一番』くらいの選手のほうが勝ち上がっていくのかもしれませんが、ちょっとひどすぎましたね。

僕は好き嫌いがはっきりしているほうなんで、和巳が加わった1年目の自主トレはほとんど口を利かなかった。少しだけ話をするようになったのは、2年目からですね」

だが、斉藤は小久保と自主トレを行うことで、大きく変わった。それを横で見ていた林は言う。

「小久保さんは本当に不器用で、『練習する』と決めたら実直に、とことんやる人。小久保さんと練習をするようになって、和巳は本当に変わりました。僕も和巳も、小久保さんに育ててもらった人間です。

小久保さんは1つのことを黙々とやるという能力を持っていた。もともと和巳も持ってはいたけど、やり方がわからなかった。小久保さんのやり方を間近で見て、一緒に実践するようになってぐんと伸びましたよね。それまでは、できたのにやらなかっただけ。小久保さんと違って和巳は器用で、何でも簡単にやる。器用な人間がそんなやり方をしたら、もう敵なしですよ」

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