(第3話)舞妓さんの「多面的な気遣い」を育む言葉

●気ばりとぅおす

 京都の花街には、芸妓さんや舞妓さんたちが通う学校(女紅場と呼ばれます)があり、年齢にかかわらず、現役の芸舞妓さんであれば、かならずこの学校に在籍することになっています。そして、新年恒例の学校の始業式では、黒紋付きに稲穂のかんざしの芸舞妓さんたちが集まり、新年のお祝いをすると同時に、前年の売上や芸事の精進の成績によって表彰も行われます。

 入賞できた妓は、「おおきに」とお姉さんやお母さんにお礼を述べると同時に、「今年も、もっと、気ばりとぅおす(きばりたいです)」と、現状に甘んじずに、前向きな意欲の気持ちを言葉にすることが多いです。

 京都花街では、努力するというときに、「がんばる」よりも「気ばる」という言葉が好まれます。それには、単なる用語の違いではなく、実は深い意味があるように私は考えます。

 「気」を張る、つまり自分の気持ちのアンテナをしっかり伸ばし周囲との関係性に配慮しつつ努力したほうが、より効率良く自分の力を伸ばせるということです。「が=我」を張ることは自分ひとりのがんばりですが、「気ばる」なら、自分を取り巻く人間関係を使って多面的で多様な視点のサポートを得て、自分の能力を伸ばすことにつながります。

 舞妓さんたちが「気ばらしてもらいますので、よろしゅうおたのもうします」と言うたびに、周囲の援助をキャッチし、そのうえで自分で工夫しつつがんばりますという、きちんとした意思表示に私には聞こえます。そして、思わず私も「お気ばりや」と、あどけない笑顔がかわいい舞妓さんに声をかけ、応援してあげようと感じるのです。

歌舞練場:祇園甲部の女紅場は、「都をどり」の会場として有名な歌舞練場に併設されている。「都をどり」は毎年4月に開催。4500円(茶券付き)で本物の芸舞妓さんの舞を楽しめるとあって、多くの観光客が訪れている。
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