月給17万円から「プロ野球審判」の過酷な現実 審判に転向した元選手は長年いない

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ちなみに給料はというと、「NPB研修審判員」は、月17万円の6カ月契約、年俸は102万円。「NPB育成審判員」は、年俸345万円だ。近年、審判を目指す元プロ野球選手が減っているのは、こういった厳しい環境が関係しているという。

パ・リーグ審判員として29年、NPB審判技術指導員を8年つとめた山崎夏生氏(写真:本人提供)

「現役審判55人のうち、元プロ野球選手は13人。かつて審判は元プロ野球選手がほとんどでした。ルールも熟知しているし、運動能力も高いため、優遇もされていました。現役時代の給料を考慮してもらったり、すぐに1軍の試合に出られたりね。

しかし、それでは公平性に欠けるということもあり、今ではNPBアンパイア・スクールの受講が必須となりました。優遇などはなく、全員同じスタートです」(山崎氏)

「NPB育成審判員」に昇格すれば、2軍の試合にも出場ができる。最長3年の育成期間内でみごと最終試験に合格をすれば、「本契約」が決まる。年俸も385万円にアップする。しかし、1軍の試合に出場するには、まだ長い道のりがある。

「プロ野球選手は、1年目からレギュラーになれることもありますが、審判の世界では無理です。審判で大切なのは『経験』です。いろんな修羅場を経験し、あらゆるプレーに遭遇し、ジャッジの引き出しをもたないといけません。

たとえ1軍の試合に出られたとしても、最初は月2、3試合から。残りの日程は2軍で経験を積みます。1軍の試合にレギュラーで出場できるようになるには、研修・育成期間を合わせると最低10年はかかるでしょう」(山崎氏)

ベテランでも前夜は緊張のあまり寝付けないことも

さらに山崎氏は、審判という仕事の大変さについて、こう続ける。

「審判は、選手と違い、イニングの表裏すべてに出場しています。選手は表裏どちらかはベンチに座り休めますが、審判には休憩はありません。とくにエネルギーを消費するのは球審。前夜は、ベテランでも緊張のあまり寝付けないこともあります。

ストライク&ボール、アウト&セーフ、ファウル&フェア、デッドボールや危険球の判定など、塁審と違いジャッジの数も多い。球審には、先発投手が完投するのと同じくらいの疲労度がありますよ」

たとえ「本契約」になったとしても審判の契約期間は1年。サラリーマンのような正社員待遇は存在しない。しかし、体力的、技術的に問題がなければ55歳前後まで契約更新の可能性もあるという。

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